新しく付いた相棒に、サイドスワイプの方がてんてこ舞いになっているらしい
≪まさか、俺の方が人間の面倒を看るなんて思わなかったさ≫とぼやいてはいたが、その顔には明らかに喜樂が窺える
サイドスワイプの新しい相棒――ナマエは、優秀な隊員だそうだ。だが如何せん、恐ろしい程に天然(阿呆)な人間らしい
予定時間を1、2分過ぎて集まることもあるらしい、隊服を前後逆に着ているときもあるらしい、自室の場所が覚えられないらしい。これらの要素を除けば優秀な女性だそうだ。……とてもそうには思えない。有り余ってるような気がする
俺は未だ、サイドスワイプの相棒のナマエと面と向かって話したことはなかった。だが話す前から情報をインプットしていたから、初対面と言う気もしない
≪コッチのネーちゃんがスワイパーの言ってたナマエか?≫
≪ああ≫
「お初御目にかかりますーナマエですージャズさんですねー」
≪おうよ≫
間延びした言葉とよく合ったのんびりやそうな笑顔がある意味で好印象だ
「いつもサイドスワイプにはーお世話になってますー」
≪……自覚あるだけマシだな?≫
≪…言わないでくれ。それで俺の苦労を片付けたくはない≫
傍らに立ち溜息を吐くサイドスワイプの姿は、言っちゃ悪いが付き人みたいだった
≪ってか、俺は別にスワイパーの親じゃねぇ。この調子で思う存分こき使ってやってくれ!≫
「えぇー」
≪おい待ってくれ。俺のブレインをこれ以上酷使させる気か?≫
≪任務一筋なお前にはピッタリなんじゃないのか?少しは何かの世話を焼く、って経験もしといた方が成長するぜ?≫
≪…ん…それも、そうか…?≫
本当に単純な奴だ。見てみろ、ナマエも愉快そうじゃないか
≪…ナマエ、それでずっと気になっていたんだが≫
「ん?」
≪その靴、左右逆じゃないのか?≫
「……あれー?」
ん?とナマエの足元を注視すると、確かに違和感がある。サイドスワイプが指摘したとおりに左右が逆に履かれている状態だった。此処まで天然(阿呆)なのか
「よく気付いたねサイドスワイプー」
≪ったく…ほら、俺の手に掴まって履き替えろ≫
「はーいー」
サイドスワイプの掌に手をかけて靴を脱ぎ履き替えるナマエ
本来なら呆れるべきところのような気がするんだが、何でサイドスワイプ、そんな穏やかーな目で見守ってるんだ
――……おい、スワイパー
――な、なんだ
――お前、もしかして…なぁ?ナマエのこと…
――なんだ!?何が言いたいジャズ!
――……いやー べつに?
明らかに動揺したような信号が伝わってきた通信にニヤリとする
そうかそうか、凄く面白い展開ってわけなんだな?サイドスワイプは、看たくてナマエの面倒を看てると、そういうわけだな?
そうなるとチョッカイをかけたくなってしまうのが性ってものだ
≪…よぉ、ナマエ≫
「はいー?なんですかージャズさーん」
≪初対面祝いにさ、一っ走り俺とドライブとしゃれこまねぇか?≫
≪ジャズっ!?≫
「あーそうですねーもうお仕事も残ってませんしージャズさんがよければー」
≪ナマエっ!?≫
≪よっしゃ、決まりだな?≫
≪ジャズ!!≫
おお、おお、怖いぜサイドスワイプ?
≪何だよスワイパー、さっきから煩いぜ?スワイパーもナマエをドライブに誘いたかったのか?≫
≪そっ…そういうんじゃ…!≫
≪なら良いだろ?お前は相棒だが、ナマエの親じゃないからな。引き止める権利はねぇぜ?≫
「サイドスワイプはー今日も頑張ってましたからーしっかりと休養しててねー」
≪い、いやナマエ その気持ちは有難いがそれどころじゃ…≫
≪ほら、乗りなネーちゃん≫
「失礼しますー」
≪ナマエっ! …ジャズ…!≫
親の仇見るみたいな目で睨まれた。おいおい、仲間に向かってその眼光はねぇよなぁ?まぁ、今はお前からしてみたら俺は敵に見えてるのかもしれないが。好都合だ
≪で、ナマエ 何処行く?≫
「とりあえず、島一周?ですかねー」
≪おお良いなぁ!≫
≪待て、ジャズ!≫
≪落ち着けよスワイパー ドライブから帰って来たらキチンとお前の許に返してやらぁ …今日中に、帰って来れたらな?≫
≪!ジャズゥっ!!!≫
≪逃げるぜ、ターボ全開だ!≫
「わぁー」
エンジンをかけて猛スピードで発進し、格納庫内を飛び出す。バックミラーにはサイドスワイプが怒り狂う姿が映し出されていた。追いかけてくるか?逃げるだけだ
「ジャズすごーいですねーはやーいー」
≪そうか?ネーちゃんの相棒と、どっちが速い?≫
「それは悪いですが、サイドスワイプですねー彼は凄いですよー本当にー」
≪……へぇ?そいつは負けてられねぇなぁ≫
おかしいな、ただの、単なる、チョッカイだけだったはず、なんだがなぁ?
悪いなサイドスワイプ、やっぱり今日から俺はお前のライバルだぜ