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私より世界を知らぬ君



彼女の目は正常には動かなかった。生まれつきだ、と諦めたような口ぶりで話す彼女にスパークが痛んでならない。何故私が人間のことでここまで胸を痛めなければならないのか、と昔の私なら今の私を嗤っただろうが今はそれも出来ないでいた。私は彼女を愛しているからだ。




≪……目が見えない、と言うのは、どんな世界なんだ?≫




負傷したことだってある。片方の目が使い物にならなくなったことも何回だってある。しかしそのたびに修復してきた。しかし彼女は最初から全てが見えないでいた。そんな世界は、果たしてどのようにして彼女の前に広がっているのか それは興味か好奇心かそれともそれ以外の何かなのか




「何もないわラチェット 私の世界には最初から何も無い」



そう話す彼女の台詞には悲哀も何も含まれていない、ただあるがままの彼女の声音だ。それは最初からそう生きている人間のみが出せる心情の表れなのか



「ラチェットは、どんな形をしてるんでしょうね?どんな色をして、どんな作りをして、どんな大きさで、どんな風に笑うんだろう」



それを想像することも出来ないんです、と彼女は笑う。ただ笑っている
哀しげでもなく、困ったようでもなく、ただ純粋に笑っている



≪私は…≫



自分自身をどのように表現すれば彼女に伝わるのか。いや、無理だろう
彼女は最初から何も知らない。大きい、という概念がどれほどのものなのかも、緑、と言う色がどのような色なのかも、そもそも色とは何なのかとも、
それはとても哀しいことのように思えた。
地球に来て、たった二年と言う我々からしたら短すぎる時の中でも
地球と言う星は大変綺麗な惑星だという印象を持った。
しかし、私よりも長い時を地球で過ごしているのに、私以上に地球の美しさを知れないでいる彼女を 哀れだと思った



≪…ナマエ≫

「哀しくなんかならないわ、ラチェット」



私の言いたいことを感づいて、先回りするナマエは遠く向こうを見ている。
彼女の目には、何が映っているのだろうか



「私の世界は、これでいいのよ」



私の方を向いたナマエだが、私は彼女の目には映ってはいないのだ、と考えると
どうしようもなく、本当にどうしようもなくスパークが締め付けられた