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三番街のドリーマー


外国で一から商売を始めるというのは大変だ

曽祖父が大の日本好きで、個人的に集めていた日本に関係する遺産を
保管のしようがないから、と父が商売を始めて数年
病で倒れた両親に代わって、アメリカの片隅で小さな日本物品店を経営するのは一人娘の自分の役目であるのは当然であった


客足は少なくはない。その多くが趣味を同じくして、日本の物を現地に行って調達することが出来ない人たちばかりだ
扇子、着物、絵……生粋のアメリカ人である自分には、いまいち価値が分からないものも多かったが、この万華鏡と呼ばれるものは好きだった。キラキラしていてとても綺麗

顧客専門、たまに冷やかし、と言ったお客の割合
今日も日がな一日店先でぼんやりと客が来るのを待っていたナマエの店の許に、
そのどれとも付かない客がやって来た



「………いらっしゃいませ」

≪……邪魔するである≫



ロボット、だ、TVで見たことがある。

宇宙からやってきて、町の危機を救ったという、ロボット集団のオートボット

その中の一人、黒くスリムなボディをしている――プロールは、店先に陳列されてある商品を物珍しそうに眺めている
ロボットも、日本のものに興味を抱いたりするのか、意外だ



「……何か、気になったものがありましたら、遠慮なく訊いて下さいね」

≪…では、この苗は何であるか≫

「ああ、それは盆栽ですよ。鉢の中で育てることも出来るし、土に植え替えて大きく育てることも可能です。確か…針葉樹みたいな木になるとか…」

≪ありがとう、了解した。コレを頂くである≫

「え…それで、いいんですか?」

≪何か駄目なことがあるか?≫

「い、いいえ」



これまた驚きな出来事だったが、ちゃんとお金を払ってくれた

ロボットの手の中にある、小さな鉢を見る。あのロボットが、あの鉢を育てる。考えただけでも凄く興味深い光景だった

だからナマエは、気付いていた時にはそのロボットに声を掛けていた



「あ、あの!」

≪何だ≫

「も、もし良ければ、ですが その鉢が生長したら、教えてくれませんか?」

≪…………≫



どこか冷静な頭が自分自身に訴える。失礼なことを言い過ぎたら、機嫌を損ねて攻撃されるかもな、と

だがその想像を裏切り、ロボットは口元を緩め、微かに笑った



≪……ああ、約束である。必ず君に見せに来るである≫

「あ、りがとうございます!」

≪名を訊こう 私はプロール≫

「ナマエです プロールさん」

≪記憶したである ではまた、ナマエ≫

「は、はいっ」



バイクに姿を変えたプロールが、シートに鉢を収納し、エンジンを吹かし、町の雑踏の中に消えた

後に残されたナマエは、呆然としながらも、今の光景が夢ではなく紛れもない現実であることに、神様に感謝した

お祖父ちゃん!貴方の宝物は、ロボットの手に渡りましたよ!こんなことってありますか?








(≪ナマエ 邪魔するである≫)
(あっ、プロールさん!いらっしゃいませ!)
(≪あの苗が、ここまで生長した。そろそろ移し変えようかと思うである≫)
(そう…ですか そうしたら、もうプロールさんが、此処に苗を見せにきてくれることもありませんね…)
(≪……そのことなんだが、ナマエ≫)
(はい?)
(≪…よ、良ければ…私達の基地に来るといい そうすれば、いつでも君にこの苗の生長を見せられるである≫)
(!?いいんですか?)
(≪ああ、問題ないである≫)
(やった!嬉しいです、プロールさん!)
(≪そ、そうであるか……≫)