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長い夜をあければ


・夢主はファウラーの妹の子ども




いつも哀しそうな顔をしてる人だな、と思った
皆のリーダーとして立つべき人材は、こうでなければ務まらないのかと思わせてくれるような、そんな感じ



≪ミコ、またバルクヘッドに付いて行き危ない目に遭ったそうだな≫

「問題ないよオプティマス!だってバルクヘッドが守ってくれたから!」

≪問題はバルクヘッドが同行していたと言うことではない。
君ばかりではなく、ナマエも連れ立っていたそうだな≫

「うっ……」


ミコがバツ悪そうにオプティマスから目線を逸らす。オプティマスに睨まれたバルクヘッドも同じく目線を逸らす。やましい事がバレた時の行動は人間もトランスフォーマーも同様だ


見かねたナマエが慌ててミコとオプティマスの間に割り込む


「大丈夫だよオプティマス、怪我もしてないし、伯父さんにもバレてないし」

≪ナマエ。君の事はファウラー殿からよろしくと念を押されて頼まれている。何かあってからでは、彼に顔向け出来ない≫

「……ごめん」


ナマエは哀しそうに顔を俯かせる。オプティマスが言いたいのはつまりこういう事だろう。
人間との関係を取り持って貰っているファウラーの、大事な姪に何か在ろうものなら折角築けた信頼が崩れてしまうから、ナマエに怪我をされては困る。

伯父は関係なかった。
オプティマス達とは、ジャック達のように日常の中でバッタリと出くわしただけ。後から自分の伯父にあたるファウラーと基地の中で出会いバレたと言うだけのはなし

自分がファウラーの姪だと分かった途端のこの感じ。好きではない



「………わたし、もうここには、来ないよ」


≪!?≫

「な、なに急に言い出してんのナマエ!」

「急じゃないよ!前から、思ってたことだもん…」



人の命は平等だ。それをオプティマス達が平等に守っていることなんて百も承知
だがそこに、少しばかりの贔屓が見られてはいけない
自分が、嫌な意味での特別な存在で、それでオプティマス達が私を守るのに注意を払うようでは負担になってしまうだろう



「だから、帰るね、わたし」

「そ、そんなぁっ!」

「ミコたちとは、また学校で会えるじゃない」

「そうだけど、違う!オプティマス達とはもう会えなくなるじゃない!」

「………」



オプティマスを見上げる。先ほどナマエの言葉に驚くような反応を取った以外は、無言でナマエを見下ろしている
その視線の意味が分からず、怖くなり目を逸らした。やましいことでは、ないはずなのに



「…ありがとう、オプティマス。今まで…貴方のパートナーになれて嬉しかったよ」



それが例えファウラーの血縁者、と言う特別な理由からくるものであったとしても


トボトボと外に向かって歩き出したナマエにオプティマスは近付き、その大きな手でナマエの身体を掬い取った


「!?な、」

≪送って行こう。夜道の一人歩きは危険だ≫



ナマエの返事も待たずに、オプティマスはトランスフォームし、強引にナマエを車内に引き入れた















「………………」


暗い外の風景を見る。窓には膨れっ面した自分の顔が映っていた。ナマエもオプティマスも、基地から此処まで終始無言。話すことはないが、お別れの言葉の一つでも言えばいいのに


「…………」

≪…………ナマエ≫

「…なーに?」



カーステレオから聞こえてくるオプティマスの声に目線と耳だけ傾ける。



≪明日は、何時に君を迎えに行こうか≫

「……?オプティマス、明日はもう、」


迎えに来なくてもいいよ、
と言おうとしたナマエの言葉はオプティマスがかけた急ブレーキの反動により飲み込まれた


≪私は、明日も君を迎えに行く≫

「………どうして?だって、私はもう…」

≪明日も明後日も、君を迎え基地に連れて行く≫

「だから、どうして!?」


カーステレオを叩く。痛い。でも痛いのは拳だけではない


「わたしなんて、ミコみたいに度胸があるわけでもラフみたいに賢いわけでもジャックみたいに勇気があるわけでもない、伯父さんの力を使えることもない。ただの凡人の私が、どうしてオプティマスみたいな人に必要なの!?」

≪君は私のパートナーだ。パートナーには傍に居て欲しい。それに、君は私の癒しでもある≫

「い、癒しっ…!?」


カッと顔が赤らむ。そんな形容をされたのは生まれて初めてだった



≪君の笑顔は何故か、私に対してのみ治癒能力と静穏作用があるんだ≫

「!、!?」

≪バルクヘッドはミコの笑顔が、バンブルビーはラフの笑顔が、アーシーはジャックの笑顔が好きだそうだ。そして、オプティマス・プライムもナマエの笑顔が好きだ≫

「そ、そ、それ…」

≪だから、もう来ないなんて言わないで欲しい。オプティマス・プライムから、ナマエまで奪わないでくれないか≫



カーステレオから聞こえるのは声だけなのに、オプティマスが震えているような気がした。

色々な感情が鬩ぎあい、堪えきれなくなったナマエの目から大粒の涙が零れる。ハンドルに突っ伏して肩を抱く



「………私でも、オプティマスの力に、なれて、ますか…?」

≪ああ。当然だ≫

「……離れないで、いいですか?」

≪此方からお願いしよう。離れないでくれ≫

「また、基地に帰っていいですか…?」

≪無論だ。何度でも、私が君を迎えに行く≫

「……うっ……っ、ふ…」



停止していたオプティマスが、ゆっくりと発進する
また動き出したハンドルの上に涙が零れ、流れに沿って流れ落ちていった









ナマエの事を心配していたミコから携帯電話に着信が入る。こっ酷く叱られてしまった。何としてもナマエを引きとめようとしていたミコだったが、通話口から聞こえてきたナマエの明るい声に、オプティマスが引き止めたのかな、と自分の役目を横取りされて不機嫌になったミコをジャック達が鎮めたことをナマエは帰ってから知った





ナマエは幸せだ。学校と家以外で、自分が存在していてもいい場所があるから
ディセプティコンとの戦いが激化していく傍らで、ナマエとオプティマスは確かに平穏を過ごすことが出来た










だが、幸せはある日途切れる







「どうして、オプティマスだけ、戻ってきてないの?」






長い夜をあければあれだけ一緒にいると言ったきみがまるで煙のように心から消えた