ナマエの睫毛は長い。その一本一本が彼女の瞳に陰を作っているのがセンサーに映る
熱心に与えられた資料を熟読し、顔を離さない彼女の顔を盗み見る。この行動は、私自身にとっても全く意味の分からない行動だった
私以外のオートボットの諸君らは子ども達を連れて出かけて行った。任務として送り出したはずなのに、ああも楽しそうにしていたのには不安は残るが、彼らと入れ違いで基地に訪れた彼女とこうして2人きりになれたことに関しては感謝する他ない
「…… オプティマス?」
≪―!≫
「ぼぅっとしてるようだけど、どうかしたんですか?」
≪あ…ああ、いや何でもない≫
「そうですか」
・・・しまった。不躾に視線を寄越しすぎていたか
駄目だだめだ、資料を読んでいるナマエの邪魔になってはいけない、と考えれば考えるほどにアイセンサーはナマエの姿を捉えたいと疼いてしまう
「それにしても」
≪?≫
「私とオプティマスしか居ない基地は、凄く静かですね」
≪ああ、そのようだ。退屈だったかい?≫
「いいえ こう言う雰囲気も、好きですから」
好きですから
スパークと言うのは愚かしいもので、ナマエのその言葉は決して私自身に言われたわけではないと言うのに、このザマだ
≪…そう、か 私も、君との間に下りる沈黙は好ましいものだと想える≫
「ふふ、ありがとう オプティマス」
穏やかな空気が流れたが、その空気を裂くようにして基地内の呼び出し音が鳴り、モニターにファウラーの顔が映った
『やあオプティマス』
≪……ファウラー≫
『そっちにナマエが行ってるだろ?』
≪ああ≫
『そろそろ帰ってくるように伝えてくれない……』
「ファウラーさん」
『おおナマエ!近くにいたんだな!』
「はい 直に戻りますから、私用で此方の通信を使用しないで下さい。直接電話に掛けてきてくだされば応対しますから」
『ははは、悪いな』
「もうっ!」
ナマエがモニターの電源を強制的にオフにすると、ファウラーの顔も画面から消える
帰る仕度を始め出したナマエに近付き問いかける
≪…もう帰るのか≫
「あの人に急かされたから…後で文句言われても適わないですしね。でも…」
≪ん?≫
「私が帰るとオプティマスが一人ぼっちになってしまうので…他の皆が帰ってくるまでは、此処にいます」
≪!≫
「良いですか?」
≪ああ勿論だ≫
良かった、と笑うナマエの顔が 消えない