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「#幼馴染」のBL小説を読む
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高鳴る胸が、






恋ではないはずです


彼の一相棒として認めて貰いたくて必死になっていたから、
彼――ラチェットのことを一日中考えてしまっていただけなんです

誰に、と言うわけでもありませんが脳内で吐き出した言い訳はどうにもしっくりきません
これで合っているはずなのに





「ジャックのお母さん、美人だね!」

「そうかなぁ…恥ずかしいんだけど」

「息子思いで優しいじゃない!贅沢だよ」

「そうだね」



ジャックのことを心配して基地にまで単身やってくるようなお母さん、見たことないよ

そう言うと照れるジャックは嬉しそうです
私も、あんなお母さん羨ましいなぁと思えていたのはたったの数日だけでした









心臓の辺りが痛い
ズキズキと一定の間隔を空けて痛みが襲ってくる
何でか?それはあの二人の姿を見ていたら分かる


自分が酷く嫌らしい人間になったような気分です
どうしてジューンさんとラチェットが一緒にいる姿を見ただけでこんなに嫌な自分になってしまうんでしょう

ラチェットの傍から離れて欲しい
此処に足を運ばないでほしい
馴れ馴れしく接さないでほしい
余計なことに口出ししないで欲しい


醜く汚い感情です。この感情の名前は知っています
認めたくは無いので口には出しません




恋ではないはずなのです


だからこの感情も、ラチェットとの相棒と言う関係を確立するまでに要してきた自分の時間を
たったの一瞬で無碍にされたような、全てが水の泡になってしまったような
そんな遣る瀬無い、平凡な人間であるがゆえの自己嫌悪なのです


医療の知識を持っているのだから、
それはさぞかし話も合うことでしょう

医療の知識も経験も持っていません
だってまだ10代の子どもです
人生のスタートラインにも立っていない只の子どもです
そんな私のどの部分を活かせばラチェットの役に立てるのでしょうか

「役に立つばかりがパートナーではない」と察してくれたオプティマスとアーシーに説かれましたが、それだけでは不満なのです

力に、なりたいのに  なれない






「……あれ……?」

≪あぁ…ナマエか≫

「………」




学校の帰りに基地に寄ると、ジャックもミコもラフも…ジューンさんも居なかった
居たのは何かの研究をしていたのであろうラチェットだけ

ラチェットから吐き出された言葉に、哀しくなった


「………あの人じゃなくて、ごめんなさい」

≪なに…?あの人?≫

「………来たのが私で、残念でしたか…?」

≪ナマエ…?い、いやそう言う意味で言ったのでは…… どうしたんだ?一体≫



作業を中断したラチェットが近寄ってきます
それが恐ろしくなって後ずさりました。ラチェットの顔が訝しげに歪みました



≪どうしたんだナマエ、様子がおかしいぞ≫

「べ…別に…何もないよ…」

≪冗談はよすんだな。そんな顔して、何が何でもないだ≫

「…っ」

≪!?≫



怒られてるわけでも、責められてるわけでもないのに

どうしてだろう 涙が出てきた



≪どっ、どうしたんだ!何故泣く! あぁ、ほらティッシュ…!≫

「うっ……、ふっ…」



ラチェットの指に小さく摘ままれているティッシュ箱から何枚か拝借する
鼻炎に悩んでいたジャックが置いてったものが、まさか自分の涙を拭う為に使われるなんて思いもしなかった



「…っ、…ラチェット、は…」

≪む…?私がどうしたんだ≫

「………私より、ジューンさんの方が、好きですか」

≪…………≫



訊いた後にすぐ後悔した。一体何を訊いているのか

怖くてラチェットの方を見ることなんて出来ません
目を合わさないように俯いていると、床に暗い影が出来ました


「……」

≪………この、馬鹿者!!≫

「――っ!?」



 ゴツン!


小さな力で、でも頭に衝撃が奔るぐらいの力でラチェットに叩かれた
痛みで生理的な涙が流れた
恐る恐るラチェットの方を見上げる。普段より数倍、呆れたような顔をしていたが
ナマエの涙を見ると、ラチェットは少し慌てた



≪…また泣かせてしまったのは謝るが、ナマエが悪いんだぞ≫

「なっ…ど、どうしてですか!」

≪答えが予め分かりきっていることを問われるのは、嫌いでな≫

「……答え?そんなの私には分からないよ」

≪答えるのも…馬鹿馬鹿しい事だ。
だが答えねば君が泣くと言うのなら、面倒臭くてたまらないが敢えて答えてやろう≫



ラチェットが膝を折り、屈み込んでナマエの顔を伺ってきた
合わせ合ったその青い目には、見たこともないぐらいに優しい光が見えた



≪…私が、唯一相棒と認め、気にかけ、姿が見えないと落ち着かなくなり、くだらないことでウダウダと悩む姿も、幸せそうにコロコロと笑う姿も愛おしいと感じ、大切でたまらないと思える地球人は ―― 迷惑だろうがナマエ、君だけだ≫


「……!」



ドラマのように並べ立てられた台詞は、泣いていたナマエの顔を真っ赤に染め上げるのには充分だった



≪どっ、どうして笑い泣いている!どっちかにせんか!
嬉しいのか嫌なのかはっきりしてくれ≫

「嬉しいから泣いてるんですー!」

≪は、はぁっ?≫

「ラチェット、わたし、貴方のことが大好きです!!」

≪な、!≫

「分かりました、これ、恋です!恋!」

≪こい!?≫

「うぅっ、大好きですラチェットー!!」

≪な、泣き止まんか!≫




恋ではないはずがなかったのです