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夜明けに顔を出したエーデルワイス


・長い夜を明ければ 続編








なんと 声をかければいいのだろう


目の前に佇む彼はおそらくだが私の言葉を待っている。いや、私が何か言いたいということを分かっているから、何も言わずに待っているんだ

何か喋らなくちゃ、と思うたびにナマエの思考回路はポンコツの機械のように脳内のリセットを繰り返す。かけようと思った言葉を次々に忘れていく。だって未だにナマエは夢の中にいるようだと思っている



≪………ナマエ≫

「!!」



痺れを切らしたのか、オプティマスはゆっくりとナマエに近付く

握り締めていた手は、すっかり指の痕がつくほどに赤くなっていた。
ナマエのその手に、オプティマスはそっと触れる

ナマエの目が大きく見開かれた



「ぁ…」

≪痛めてしまう≫



やめるんだ、と言いかけて、オプティマスは口を噤んだ。 ナマエが泣いた


先ほどまでの落ち着いた様相はなりを潜め、アワワとオプティマスの方が狼狽しながらもナマエに顔を近づける。屈んだ際に、ラチェットにリペアしてもらった膝関節が少し痛んだ



「…っ、ふ…」

≪ナマエ…?≫



窺うように覗き込んだその時



「ォ…、…オプティマスー!!」

≪!?≫



うわーん!と声を上げながらナマエはオプティマスの顔に飛びついた



重なったナマエの衣服によって視界がシャットダウンされる。
その前に見えたナマエの顔は見事なまでの泣き面だったのは確か



「あ、会いたかった…!」

≪…ナマエ…≫

「オプティマスが、オライオンになっちゃって、メガトロンについてっちゃって、ネメシスにいて、消えちゃって、誰も迎えに来てくれないし、オプティマスいない基地嫌だったし、オプティマスボロボロだし、ジャックも、ラフもミコも、うぅっ…」

≪……≫



落ち着いてくれ、なんて誰がナマエに言えるものか




彼女が言っていることをオプティマスは半分も理解は出来なかった
彼女や仲間が言うような事柄はオプティマスのブレインには記録されていない

つまるところ、私は自分の関与した何らかの出来事を覚えていないのだろう。
それはメガトロンも関わり、仲間達の手を煩わせ、何より彼女に心労を与えてしまうほどの出来事。それを自分は覚えていない。

だから彼女にかけられる言葉も少なくなってくる
しかし、それでも伝えたいことが無くなってしまったわけでは決してない


未だ尚泣き続けオプティマスの視界を文字通り埋め尽くしているナマエの体をそっと抱き上げる



「! お、オプティマス?」

≪…今、私の目の前には、ナマエ 君がいる≫

「う…、うん」

≪そして君の目の前には私が居る≫

「そう、だね」

≪記憶が不鮮明な部分が邪魔をしていてよく覚えてはいないのだが、君と私がこうして会えたのはおよそ久方ぶりと言えるのだろう≫



言葉を止めて彼女の目を見つめる。涙で赤くなった彼女の小さく綺麗な瞳は、間違いなく私を映している



≪……ただいま、ナマエ≫




そう呟かれたオプティマスの言葉に、ナマエは彼が何を伝えたいのかを悟った



「…お、お帰りなさいオプティマス…!」

≪ああ≫

「…お帰りなさい!」

≪ああ≫

「お帰りなさい!!」

≪ああ、ナマエ ただいま≫




1つだけ思い出したことがある。
記憶のない形容しがたい真っ暗な時の中で、薄くぼんやりと白く光っていた存在がある
今なら分かる。



あれは、この子だったのだ