≪……また来たの……ですか、ナマエさん≫
「ふふっ、ジェイファイブさん。無理に私に敬語使わなくてもいいんですよ?」
≪しかし…≫
「ね、お願いです」
≪……善処し、…する≫
日本の大企業会社の社長のご令嬢でおられるナマエは、
可憐で清楚、と言う言葉がよく似合う女性だった
世間知らずの深窓令嬢として育って来たらしく、実の父親から「成人したら、世間を見て来い」と言われ、無事に成人した彼女は一人暮らしを始めたのだと聞く。
新幹線に乗ったことがないという彼女が、此処、俺の停留する駅に初めて訪れたのももういつだったことか
≪…やはり、お一人で足を運ばれては危ないのでは?≫
「大丈夫です。此処はとても楽しいところですね。人がたくさん、本の中でしか見たことのなかった列車がいっぱい…」
きょろきょろと人ごみや停車している車両を見渡すナマエの姿が子どものようでとても愛らしく感じる。最初に彼女と出会った時を思い出した
「…ここ、どこでしょう?」 ≪(…?迷子か?大の大人が、情けない奴だな)≫ 「………」 ≪(…!泣くのか!?迷子だけで?)≫ 「……」 ≪(良かった…泣かないよな、やっぱり)≫ 「…」 ≪(………)≫ 「………」 ≪(………あぁぁぁあぁあ見ていられん!) おい、そこの貴方≫ 「!!?」 ≪迷子か?≫ 「しゃ、車両が、ロボットに…!?」 ≪聞いているのか?≫ 「…すごい!やはり世界は見たこともないものでいっぱいですね!」 ≪はあ?≫
出会った時はとてもご令嬢だとは思わなかったが、交流を深めていくうちにだんだんとナマエの全体像を知って行って、酷く落胆した覚えがある。まさか、ご令嬢、だなんてな
≪……ふ、…我ながら≫
「……?どうかしましたかジェイファイブさん」
≪…いいや≫
無謀な恋をしたものだ
俺を見て柔らかく微笑む顔に、子どものようにキラキラと笑う笑顔に、あれこれと訊ね知識を得ようとする好奇心に、丁寧な物腰に、放っておけない可憐な容姿に、彼女の全てが、愛しくてたまらない
しかし、所詮は人間とロボットだ。異種間の恋愛が報われたなんて、そんな話は聞いたことがない
それに何より、彼女は高位な地位の持ち主であり、きっと俺のことはどうも思ってない筈だ。珍しい生き物、と思われているかもしれない。……いや、ナマエはそんなこと考えたりしないか、
≪……乗らないか、ナマエ≫
「え?何処へ?」
≪サイバトロンネットを繋いで、貴女の好きなところへ向かえるぞ≫
職権乱用だが、まあ割りと許されることだろう
突然の申し出だったが、ナマエは手を叩いて喜んだ
「素敵ですね!私、ジェイファイブさんと是非行ってみたかった場所があるんです」
≪っ、俺と、か?≫
「はい! 私、海から見える水平線が見たいです」
≪海か。可能だ 行こう、乗ってくれ≫
ドアを開き、中に乗るように促す。空調を整え、過ごしやすい温度に調整する
横がけのソファに座ったナマエは、辺りをキョロキョロと見渡し、笑顔で訊いてきた。
「乗客は私だけですか?」
≪勿論だ≫
「ふふっ、今までで 一番素敵で幸せな贅沢です」
≪………俺もだ≫
笑ったナマエの笑顔に、こちらはメインコンピューターがショートしてしまいそうだったが何とか堪えて言葉を返す
ゆっくりと発進すれば、ナマエはソファから立ち上がり運転席にやって来た
窓から高速で流れていく風景に興味はないのか?と思ったが、違うようだった
「うわぁ……」
真正面から見る流れて行く風景が見たかったようだ。
座っても大丈夫ですか?と運転席を示したから、大丈夫だ。と答えると
ナマエは恐る恐るシートに腰を落ち着けた
「…最高です」
≪それは良かった≫
「まだ…海についてないけど、ずっとこのままでも良いです、私」
≪……そうか≫
同じ気持ちだ、ナマエ
ゆっくりと進行するそれは、