≪またナマエか!早く家に戻りなさーい!≫
「うわっ、またあのパトカーじゃん!」
私が親と喧嘩をして家を飛び出すと、決まってうちの自宅の近くを走っているパトカーと知り合いになったのはもう随分前の話だ。
無人のパトカーに追い回されたあの日の恐怖を忘れたわけではない
そのパトカーの正体が実はマッハアラートとなるトランスフォーマーだったということを知ったときの驚愕も忘れない
要するにこのパトカーが私は苦手だった。
「もー!どっか行ってってば」
≪君が無事に家に帰るのを見届けたら俺も帰る!≫
「うっざー!パトカーが人間をストーキングしてもいいと思ってんのー!?」
≪この俺がストーカー行為をしてるだと!?≫
いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!
うちの親と協定結んでんじゃないのかと疑うぐらい丁度いいタイミングで私の前に現れるから得体の知れない気味悪いパトカーという第一印象を拭うことができない。それはこのマッハアラートと出会って半年のうち、一向にだ!
≪俺も暇じゃないんだ。だから早く家に帰れー!≫
「ならもう私のことなんて放っておいて良いから仕事に戻ってよ!」
夜の住宅地を少女がパトカーに追われてるだなんて、
ご近所の目のかっこうの的だと思っていたが、みんな慣れてしまったのかもう今では顔も苦情も出さない
急に飛び出してきたから上着は着ていないから寒いし、
サンダルで出てきたから走ってたら足も痛いし、
あれ、何で私こんな目にあってんのよ。これも全部あのパトカーのせいだ!
≪君を放って帰って、その後に君の身に何かあったらと思うと気が気でいられないんだ!≫
「貴方は私の保護者か恋人なの!?」
≪ち、違うぞ!?≫
「分かってるわよっ」
この天然ボケパトカー!本当に喋ってて疲れる!いつまでも追いかけてくるし、人間と車の体力の差なんて比べるのもバカバカしいのに!
「はぁっ……はっ、…も、つかれた…」
≪やっと止まったかい?≫
「…あ、…あんたねぇ…」
私が膝を押さえて息を整えてる後ろで、ケロッとした表情でロボットモードになったマッハアラートを出来るだけの力で睨む。睨まれた本人は何故自分が睨まれてるのか分かっていないようだった。腹立つ!
≪ほら、パトカーに乗って帰るのは嫌だろう?俺の手に乗って帰ろう≫
「…………っ、」
すごく嫌だったけど、疲れてたし、パトカーになんてそうそう乗りたいものでもなかったから、すっごく嫌な顔でマッハアラートを睨んでから掌に渋々乗り上げる。
マッハアラートは満足した顔で、結構な距離まで離れた私の家の方へ歩き出す
≪今日は何で喧嘩したんだい?≫
「……………何で、アンタに、話さなくちゃ…」
≪道中暇なんだ、話して帰ろう≫
「……………わかんない」
≪ん?≫
喧嘩の理由?
あれ、今日は、きょうの喧嘩のりゆうは、
「……なんで、だっけ…」
≪………≫
何か、気が付けば毎日何でもないことで喧嘩している。いや、しかし大小なりとも今までは何かしらの理由があって喧嘩をしていたはずだ
分かっている、私の反抗期と呼ばれる時期のせいだ。多分
「…なんで、あんな酷いこと言ったんだっけ…」
≪………≫
夜になってくると、冷静になると、誰かに話していると
途端にお母さんへの謝罪の念がこみ上げてくる。
泣きたくないのに、どうしようもなく泣きたくなった
嫌だ、泣くなんて、すぐ近くにはマッハアラートだっているのに、
「っぅ……、ふっ…ぅ」
≪……俺も一緒にいるから、一緒に帰ろう ナマエ≫
「……っ、…」
マッハアラートの言葉に、頷きを返すだけで精一杯だったのは初めてだ
別にマッハアラートの存在に慰められたわけじゃない。絶対、そうじゃない そうじゃないはずだもん
「……マッハアラート、の ばかぁっ…」
≪おいおい……まったく、しょうがないな≫
明日は、喧嘩するんじゃないぞ?
マッハアラートの言葉に やっぱり私は頷くしか出来なかった