一般人でただの高校生である私が気軽にサイバトロン基地を訪れることが出来るのは、
実の弟であるユウキのおかげだった。サイバトロンの皆は私の日常にとても良い刺激と楽しみをくれる存在で、私は彼等が大好きだった。弟には感謝してもし尽くせないな
でも今日は遊びに来たのではなく、ユウキを探しに来たのだ。学校にも家にも居ないとなると、後は此処かなと思って基地に立ち寄った。
「こんにちはーユウキいるー?」
室内に入るとアイちゃんが姿を現し声をかけてくれた。どうやらファイヤーコンボイ達は出かけているようだ
『あら、ナマエちゃん。ユウキ君は今はいないわ』
「え、そうなの?何処行ったのかなー…」
『そう言えば、街中にある公園に友達と一緒にいる姿を監視カメラが捉えたけど、今日は友達と遊ぶ予定とかじゃなかったのかしら?』
「あ、そうかも!そう言えば2日ぐらい前に遊ぶとか言ってたっけー…なーんだ、少し心配したのに」
『ナマエちゃんはユウキ君の心配して、本当にいいお姉さんね!』
「そ、そうかなー………」
アイちゃんに褒められて恥ずかしくなっていると、
メインルームのハッチが開き、外からスピードブレイカーが飛び込んで来た
≪ナマエ!やっぱりナマエだ!!超良いベリーナイスでグッドタイミング!!!≫
「?え、うん そ、それはよかった」
≪いいお姉さんのお前に頼みがある!ちょっと一緒に着いてきてくれ≫
「え?何処に――…!?」
私の返事なんて待たずにスピードブレイカーは私の身体を車内に押し込み、猛発進でランウェイに上り地上に出た。出た場所はよく3兄弟が移動や見回りに走っているいつもの高速道路だった
その高速道路の一角で、何故か膝を抱えて大きな身体を丸めて落ち込んでいる姿のマッハアラートと
そのマッハアラートに声をかけたり、その周りをウロウロしながら様子を見ているワイルドライドがいた。どう考えても通行の邪魔になる場所に
「………何であんな場所でマッハラートは落ち込んでるの」
≪それには海よりも深い事情があってだな………ワイルドライドの兄貴!ナマエを連れてきたぜ!≫
≪おおおナマエ!!待っていた!さあこれをどうにかしてくれ!≫
「は?」
ワイルドライドとスピードブレイカーの話では、こうだ。
いつもどおりにワイルドライドは鉄塔の上を目指して、仕事を放棄し階段を爆走していた。
いつもどおりにスピードブレイカーは高速で見かけた赤のスポーツカー(今回はあのお姉さんは乗っていなかったらしい)を追い掛け回していた。
それを咎めるマッハアラートの姿もお馴染みだったのだが、今回ばかりは勝手が違ったようだ。
2人のその行動の悪さに、やはり自分がしっかりしていないから兄と弟は自分の言うことを聞き入れてくれず、素行の悪さも直してくれないのではないかと考えてしまったらしい。そして自分の不甲斐なさに絶望して落ち込んでいるのだという。
ワイルドライドが根気よく話して聞き出した結果、落ち込んでいる理由はわかったのだが改善方法が解らないとのこと。だから兄弟の問題は同じく弟がいる姉の私に聞こう!となったらしい。一つ言わせて貰えば…
「あなた達が生活行動を改めれば良いと思うんだけど…」
≪ん?何か言ったかナマエ?≫
「……いいえ…」
スピードブレイカーから降りてマッハアラートとワイルドライドに近付く。
ワイルドライドが場所を譲ってくれたので、私はマッハアラートの真正面に立つ
マッハアラートは私の存在を察知したのか、俯けていた顔をそっと上げて私を見た
≪……ナマエ?≫
「うん、こんにちはマッハアラート」
≪ああ…こんにちはナマエ≫
やはり明らかに元気と覇気がない
「…えっと、2人から事情は聞いたよ」
マッハアラートの肩の装甲に触れると、ピクッと身体を揺らした
不安そうな顔をしているので、ニコッと笑いかけてみる
「マッハアラートが悪いんじゃないよ…全部言うこと聞かないワイルドライドとスピードブレイカーが悪いの。マッハアラートが気に病むことは一つもないの。マッハアラート、毎日頑張ってるもんね!」
≪ナマエ……≫
後ろで2人が≪俺達が悪いんだ!≫≪そうだそうだ!≫と言っているが、それはちょっと逆効果のような気がしたので、目線で「黙ってなさい」と命じる。2人は大人しくなってしゃがみこんだ
「でも2人には好きなこととか、やりたいこととかがあって、それを止めるのも良くないとは思うよ?仕事放り投げてやるのは絶対に悪いことなんだけどね」
≪…好きなことをやっている……≫
「うん。2人は悪い!でも、マッハアラートだって、何か好きなことを見つければいいんじゃない?仕事しごと、って考えてたら疲れちゃうからさ」
≪好きな、こと、か……≫
「何でも良いのよ?マッハアラート 何か夢中になれることないの?」
いつの間にか近寄ってきていたワイルドライドとスピードブレイカーと共に期待に満ちた目でマッハアラートを見つめる
マッハアラートはウッ…と怯んだが、ゆっくり考えているらしく≪好きなもの…夢中になれるもの…≫とブツブツ呟いている
≪あ!≫
「あった!?」≪あったのか!?≫≪なになに!?≫
閃いたのか、さっきより幾分顔が輝いている。
マッハアラートは屈んで私の顔に顔を寄せて来た。思わぬ距離に少し身体が熱くなった
≪ナマエとドライブするのが一番好きなことだ!≫
「え」
そんな嬉しそうに言ってくれたマッハアラートには悪いのだが、私は途端に恥ずかしくなって上手くマッハアラートを見ることが出来ない。
隣りの2人が≪ほげー!?≫だの≪いやっマジかよ!≫と騒いでいる
「あ…え、えと、わ、私もマッハアラートとドライブするの、好き、です」
何でこんなに緊張しなくちゃいけないんだろう
マッハアラートのせいだ。絶対に
≪そうか!嬉しいよ。また時間があったら、是非一緒にドライブしような≫
「う、うん!」
マッハアラートに両手を握られて緩く抱きしめられる。ヒューヒュー!と囃子声が聞こえた。絶対にあの2人は後で殴る
≪いやーしかし何であれこれで一件落着だな!≫
≪ナマエのおかげで俺達はまだ好きなことを続けられるしな!≫
「何言ってんの!許しはしたけど、限度があるのよ!マッハアラートを困らせない為にも、与えられた仕事はちゃんとこなしてからやりなさい!」
≪≪は、はい!!≫≫
≪ナマエに叱ってもらったほうが、2人も言うことを聞くみたいだな≫
(≪ナマエ、今日は何処へ行きたいんだい?≫)
(うーん、マッハアラートの走りたいところでいいよ?)
(≪そうか、それじゃあ夜のハイウェイでも走ろうか。夜の風景が凄く綺麗なんだ≫)
(うん!)