≪逃避行しようぜ≫
他の人に対してはこんなことないのに、ナマエにだけはワイルドライドはこうだった
人間の手よりも何十倍も大きなそれを寄せ、ナマエの腕を器用に親指と人差し指で掴んで引っ張って来る
表情は読めない顔の構造をしているワイルドライドでも、その顔が喜色で溢れていると言うことは悟れたのだ
「逃避行?なぜ?どう言う意味?」
≪つまりオレとナマエとのデートだ!≫
「デート?なんで?」
全く融通の利かない性格だ。
年を重ねる度に素直でなくなってきている
いつもは任務や見回りで忙しいワイルドライドが、仕事の合間を縫ってデートに誘ってくれていると言うのに
≪オレとナマエは、一緒にドライブしたことないだろ?≫
「そう…だっけ」
≪スピードブレイカーの奴とは頻繁にしてるって聞いたぞ。ズルイじゃないか!≫
オレだってナマエと山道悪路登山道デートしたい!
巨大な左腕を上に掲げてワイルドライドはそう叫ぶ
ジワジワと、ワイルドライドが言ってくれた言葉が脳に響いて行き、
ナマエの顔は直に赤く染まりきってしまった
「い…いいよ…」
≪ん?≫
小さかったナマエの声が聞き取れなかったワイルドライドが、屈みこんでナマエの口に顔を近づける
近付いてきたその顔に、真っ赤な顔を惜しげもなく晒してナマエは叫んだ
「わ、私もワイルドライドと悪路デート、したいです!」
≪そうこなくっちゃ!≫
左手でヒョイっと身体を掬い取られたかと思うと、ナマエの身体はそのまま直ぐにワイルドライドの左の助手席に押し込まれる
≪やっとナマエと悪路デートに行けるんだ!とびっきりの悪路を用意してやるぞ!≫
「お…お手柔らかでお願い…」そう言ったナマエの顔は、笑顔とも苦笑とも取れた
終日、ワイルドライドの助手席に収まり、嫌でも…いや、これでもかと悪路を走られ、
その度にナマエの身体は揺られ続け、ガンガンとシートに打ち付けてしまった腰が
真っ赤に晴れ上がってしまい、痛む腰を擦っているナマエの後ろをずっと心配そうにしているワイルドライドの2人の姿を見たスピードブレイカーが、2人の間に何かあったことを疑うのは翌日のこと