暫定嫁
………
*主人公と友人Aの会話
昼過ぎの喧騒の中、次の大学の授業までの空き時間を潰す為に立ち寄ったファミレスで、
ウェイトレスにコーヒーを注文した友人の男はやおら顔を明るくさせてテーブル越しに詰め寄ってきた。
「で?最近どうよ "ローちゃん"は!」
「……お前とは違うんだよこのロリコン野郎」
どうもこうも。変わらずちょっと素直ですごく可愛いトラファルガー・ローちゃんですよ
不思議な出会いを果たした俺とローのふかーい事情をこいつは知らない。
"知り合いの女の子をしばらく預かってる"と言う嘘を信じているから、この友人はこんなに呑気に訊いてくるのだ
「今の内にツバつけとかないでいいのか?」
「…あのな、ローは五歳なんだぞ。ツバも何もあるか!」
「でも結構可愛い子じゃんか〜 お前のことを好きって言ってくれてるうちに『ありがとな〜ロー 俺もお前のことが好きだよ将来おにいちゃんと結婚しよっか?』ぐらい言っといたって遅くねぇから!!」
妄想癖の酷い男だとは思っていたが、よもやここまでとは。なんだおにいちゃんと結婚しよっか?って 俺は光源氏じゃないし、節度だってきちんと弁えてる
たとえローが可愛い女の子で、俺に毎晩「好き」って言ってこようが、将来が今から楽しみだよなとかじゃなくて、ちゃんとしておかなければならないラインを飛び越えるわけにはいかないんだ
「じゃあおれもローちゃんと一緒に遊んでもいいか?」
「駄目に決まってんだろうがテメェうちのローに近寄るな」
「えええーって、お前のスマホ鳴ってねぇ?それ」
「あ? ――あ」
テーブルに置いていたスマホが震えていた。ディスプレイには「家」の文字
「もしもし、ロー?」
ローからだとは分かっていても一応問いかける。電話の向こうから『…うん』と言う肯定の返事が返って来た。どうした?何かあったのか?と問えば、ローはおずおずと口を開く
『……今日、何時に帰って来る?』
「え、今日か? 今日はー…バイトが19時までだから、20時までには帰るよ」
ニヤニヤした顔でこっちを見てくる友人にお絞りを投げつけながらローの返事を待っていると、沈んでいた声がパッと浮上した
『そ、っか。分かった。洗濯物とりこんどく。じゃあ…切る。電話してごめん』
「あぁ、大丈夫だぞ。よろしくな」
『うん ――待ってる ナマエ』
「 え」
プツン 通話が切れた。画面はホームに戻っている
「なんだって?ローちゃん」
「かわいい」
「は?」
「うちのローめっちゃ可愛い」
「…そっか…良かったな…?」
<< >>