暗い企画 | ナノ
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ここに、飼い主を失い衰弱している猫がいる。


かつて猫は愛されていた。
可愛い、と褒めてくれた飼い主からの愛を一身に受けて、小さくもとても幸せな毎日を送っていました。それはもう遠い昔の話のような気もするけれど、実際にはまだ二年と少ししか経っていませんでした。ですがそれは、猫にとってはもうどうでもいいことなのです。


猫は飼い主だけに懐く生き物であった。
彼の温かな掌を思い出すだけで、彼はとても素晴らしい人だったと思い出すことが出来ます。
それ以外の人間では駄目なのです。猫は意地っぱりな性格をしていましたので、飼い主以外の手は甘受しませんでした。触られたくもなかったのです。何故なら、誰かに触られてしまえば、もう触ってくれない飼い主の手の感触を塗り替えられてしまうと思ったから。


猫は助けの手を断った。
多くの人間たちが、猫を憐れに思い一緒に行こう、おいでと手を伸ばしてきました。それら全ての手を無視して一人船を降りた猫は何処へ行こうともしていませんでした。
どこに行ったとしてももう飼い主は死んだのだと、あの墓を見て悟っていたのです。










――エースは嘘吐きだったんだなぁ


ニャア、と鳴いたナマエは幻滅していました。あの日、確かにエースは自分に向けて「すぐに戻るから」と言いました。戻って来ませんでした。何日待っていようともう帰っては来てくれません。


嘘吐きです。エースは嘘吐きです。新しいリボンを買ってきてくれると言いました。買って来てくれていません。嘘吐きです。付けていた桃色のリボンはもう汚れて破けて汚くなっていました。この有様では可愛いと言ってはもらえません。

しかしエースは嘘吐きなので本当はナマエを可愛いと言っていたのももしかしたら嘘だったのかも知れません。ナマエも自信が無くなっていました。自分は可愛い存在であると思っていましたが、もうそうとは思えませんでした。

酷い男ですエースは。約束を破らず、戻って来てくれず、一匹の猫を死なそうとしているのですから、誰から見たって、エースは、酷い男、なのです



「………」



さびしいよ、エース あなたの あたたかな て が こいしくて、たまらないの



「……にゃぁ」



おねがいよ、エース うそつきでも ひどいおとこでも いいから、かえってきて