暗い企画 | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



「今、外は何時くらいなんだ?クロコダイル」

「それは今のお前にとっては何の価値もない情報だ。知らなくてもいい」

「じゃあ俺が地下に閉じ込められるようになってから何日が経過したんだ?」

「十五日目だな」

「そうか、もうそんなになるのか」



ナマエは久しぶりに、"人間らしい"ことを考えてみた。
暫く考えていなかったことを頭に思い浮かべ、そしてそれを確認する術を持っていないことに関して焦燥も疑問ももう抱かない。よほど自分の体が既に"人間"とはかけ離れた位置にあるような気がして笑えては来る。
クロコダイルが教えてくれた「十五日目」と言う数字 これがいかに狂気性の溢れた言葉であるかをナマエが理解するには、もう少し水分が必要だった。





事の発端はたった一度のミスだった。

アラバスタ王国占有計画を企てるサー・クロコダイルの下で任務に従事していたナマエが、潜伏先のアラバスタ王宮内である不祥事を 起こしかけた。
それはナマエが兵士となり、アラバスタ王宮内での情報を集めると言う哨戒任務を行っていたときの話だ。兵士たちの詰め所で雑談混じりに交流をしていたナマエと、ナマエと交友関係を結んでいた友人である男が、ナマエに向けてこんな事を言った。


『英雄だか何だか知らないが、クロコダイルってのは調子に乗りすぎてるよな』


友人からしてみれば只の、なんでもない悪態だったのだ。レインベースでカジノを経営し、民衆たちを襲い掛かる暴漢たちから護り、『英雄』と褒めそやされる者
その存在は、王国に忠誠を誓う兵士からすれば、王の権威に陰りを射させる存在として目障りに見えるのだろう。
普通の神経だ。疑うことなくネフェルタリ・コブラに忠誠を誓う兵士らしい言い分

しかし、その友人とは違い、腹に一物を抱えているナマエとでは見解が変わってしまったのだ。



「兵士に殴りかかりあわや死傷事件……スパイとしての自覚が足りなかった己の弱さを嘆くんだな、ナマエ」

「……面目ない」



"己が忠誠を誓う人物"を侮辱され、つい激昂し我を忘れてしまうと言う大失態
詰め所の床に倒れた友人と、自分の身体を抑える兵士たちの存在を確認しながら(ああ、失敗した。クロコダイルに殺される)と思った。
さぞかし異様に見えただろう。アラバスタの王よりも、レインベースの英雄を思慕するようなナマエの言動は。
ナマエは自主的にアラバスタ王宮から遁走した。境遇がバレ、処罰されるわけにもいかない。自分の犯したミスで、あの方の野望の邪魔は出来ない。たとえ帰還して、事情を知ったクロコダイルに殺されることになろうとも。


だがクロコダイルはナマエを殺さなかった。てっきり手を下されるとばかり思っていたナマエに、クロコダイルはこう言ったのだ。――「なら、閉じ込めてやる」と。



まず腕と足の水分を枯らされたナマエをクロコダイルはカジノの地下にある独房に監禁した。社長や権限のある社員しか立ち入ることは叶わないこの暗い場所で、ナマエはもう十五日も居る。与えられる水や食糧は、クロコダイルが思い出したときと言う随分とアバウトな措置だが文句を垂れられる身分でもない。ナマエは甘んじてこの事態を受け入れるしかなかった。



仕事の合間にナマエの様子を見に来たと言うクロコダイルは、檻の前で何故か腕組みをし、何事かを思案している。
やがてクロコダイルは咥えていた葉巻を取り、ゆっくりとした口調で話し出す。



「………そろそろ出して、復帰させてやろうかとも思ったんだが」

「……なんだ、不穏な呟きにしか聞こえないな」

「気が変わった。お前はまだこのままそうしていろ」

「…気が変わった、とはどう言う意味だ? どんな気分になったんだ、クロコダイル」



問いかけたナマエの言葉に、クロコダイルは珍しいことにニヤリと口元を歪め笑った。――あ、いけない。ナマエは直感的にそう感じた。付き合いもそこそこ長いクロコダイルのこの表情の意味 それを理解できたような気がしたのだ。



「ナマエ おれはたまに考えていたことがあってな」

「…と言うと?」

「社員も部下も多くの数を確保出来たが、そいつらからの百の忠誠よりもお前からの一の忠義の方が心地好く感じる時がある」

「それは…嬉しい話だな。長く身を砕いてきた甲斐があると言うもんだ」

「ああそうだな。 お前は身体を砂にしてまでも、おれに付いて来た」



何が言いたいのだろうか、このボス様は。
クロコダイルは、地べたに座っているナマエと目線を合わせるように膝を曲げ、腰を下ろした。ニヤニヤと、楽しそうな笑顔を浮かべて。



「おれがお前に飽きるまで、お前はおれの掌中に居続けるべきだろう?」


――手駒 ではない。
それとは違う、もっと別の意味でクロコダイルはナマエをモノにしようとしていたいと考えているのだ



「……熱烈な告白だと捉えても良いのだろうか?」

「だとしたらどうするんだ?」

「…喜んで応えることにする」

「それでこそおれの忠犬だな、ナマエ」

「はは …ご主人さま、ご主人様 喉が渇きましたので水を頂けないでしょうか?」

「どうするか」

「酷いお人だなぁ」