大切な人を一人救ったことによって、別の人間を一人貶めてしまった。 人を呪わば、ともまた違うけれど、誰かを不幸にさせれば必ずその報いは自分にやってくる。 私の場合、その代償はすぐに与えられました。 「ナマエ! おいナマエ!! 目ぇ閉じんなって、おい!!」 そこには、傷一つ負わず、血の一滴も流れていないサッチさんがいる。顔をクシャクシャにさせて私の顔を覗き込み、必死になって 目を開けていろ、閉じるな、死ぬな、と繰り返す。それは頑張れる。なるべく気力を保ったまま、瞼を下ろさないようにしていた。けれど、血よ止まれと呼びかけられるのは困る。そればかりは気力ではどうにもならないのです。 「ぁ…あぁああ……なんで…何でおれなんか庇ったりして…!!」 だって、それが私の役目でした。 途切れ途切れになりながらそう伝えても、サッチさんは「役目? なんだよ役目って!」耳元で怒鳴るばっかり。けれど何も怖くはないのです。 泣きながら怒って、鼻水まで垂らして、まるで子どものようですね。 「死ぬのは、もう怖くないです」 だって、死ぬのはこれで"二回目"だ。 一回目の時と同じように、意識は朧気になり、身体から生気が抜け、血の気が失せる。 今回は人魚だったので、足先ではなく尾鰭が土のように渇いて萎びていくという新しい体験もあった。 「怖くないって、そんなやつがいるわけないだろ! 誰だって死ぬのは怖いんだ! 死なれることだって、怖くてたまんねぇんだぞ!!」 そうか、そういうものなんだ。それは知らなかった。 だって一回目の死の間際は、私は一人だったから。 でも、今回は違うんだ。 一人ではないんだ。 「サッチさん」 「なん…!」 「どうか生きてくださいね。 私の死が、サッチさんの生に永く繋がりますように」 きっとこれで、私は自由になれるのだ ――さあ、どこへ還ろうか |