「やぁっと見つけたぞクマシィー!」 目の前に浮かぶこの美少女は一体どこのどなたなのだろうか。 「 って、汚っ! 仕方ないとは言えこんなに薄汚れてんのかよお前!あーもう帰ったらまず風呂にぶち込んでやっからな!」 …ああ、その美少女にあるまじき言葉遣いと横柄な態度を見て瞬間的に思い出した。ペローナ様だ。クマシーの唯一の主にしてスリラーバークのお姫様 お久しぶりですねペローナ様、何故でしょうかとても永らくお会いしていなかったような気分です。いま一つ記憶が判然としておりませんが、クマシーはとてもとても、貴方にお会いしたかったですよ 「…おいクマシー? お前まだ生きてんだろ?なんか話せ。今だけ特別に許してやっから」 促されてようやく自分が今までの気持ちを言葉にしていなかったのに気が付いた。あのペローナ様自らが発言のお許しを出してくれるのは珍しい。またとない機会かもしれない。久方ぶりにこの縫い付けられた上からマスクの着用までさせられてしまった口を開くチャンスだ。口の端からベリベリバリバリとやけに嫌な音がした。ペローナ様もあまりの音にうわっ!と顔を歪めてらっしゃる。でも問題はないですよペローナ様 クマシーは喋れます 『ベ、ロ゛ォナ さ… !?』 ――って、クマシーの声もめっちゃ汚い! すんごい濁声! 風邪を引いて喉を悪くしたときのような声だった! 低音ボイスがクマシーの売りであったのに、これではあんまりだ。ペローナ様も「話せ」と促した声がこんなに汚くてはさぞや幻滅だろう。抱きしめてくれているこの手も放されてしまい、クマシーの身体はスリラーバークに散らばる瓦礫の上に叩き落されるやもしれない。ですがペローナ様になら何をされてもクマシーは大丈夫ですからね、やるなら遠慮なくやってくださっても結構なのです 「…っ、クマ、シィ…!!」 『!? ペローナ、さ』 「うわぁぁぁああん! 会いたかったよクマシー!!」 よくよく見てみれば、ペローナ様の身体も僅かに汚れていた。露出した肩には何かに当たってぶつけた様な痣があるし、クマシーを抱きしめる手や回されている腕にも煤や埃の汚れが付いていたり、召し物の裾も破け解れていたりと、見目を気になさるペローナ様には有るまじきご様子だ。 「もうもうもうっ、私の傍を離れたりなんかしたら、今度は表面の皮ぜんぶ剥いでやるからなぁー!」 涙で顔を濡らしながら恐ろしいことを言いなさるペローナ様の言動もどうしてだろう、今はとても愛おしい。 『…はいペローナ様』 今、クマシーは"満ち足りた何か"で一杯になっている。今までクマシーの中にあった黒くて汚いものとかが全て無くなって、ペローナ様を想う気持ち一つだけがずっしりと残っているような、そんな感覚だった。 |