暗い企画 | ナノ
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踝から下の感覚はもう既に無くなっていた。十本あった筈の俺の足の指は、六本しかない。左右仲良く二つずつ、親指と中指が欠けてしまった。火傷のような真っ黒い染みが体中を這いずり回り、触れたところの部位から腐っていく奇病だ。新世界のとある原始林島を探索していた際にその病原菌を引き入れてしまった俺の身体はそれから暫くして崩れ始めた。
申し訳なくなるようなぐらいに船医や名医を掻き集めてくれようとしているオヤジや仲間たちにも、「近付かない方がいい」と言っている。この奇病に罹ったのは俺だけではないけど、他の奴らは高熱を出したりするだけで、体のどこかが腐っていくと行った現象は今のところまだ見られていない。船医も「すまない、医者として情けないが…」と治す手立てがまだよく分かってないらしい。謝る必要はなかった。そりゃあ俺も治して、元の健康な体に戻してもらいたいけど、 すまない、分からない、自分が情けないって言いながら涙を流してくれる人を追い詰めて詰るほどひん曲がった根性なしではないのだ。それよりもこんな面倒な病に、オヤジや、ジョズや、エースや、 マルコが罹らなくて良かったって思う。俺は体が丈夫なんだ。能力者達に混ざって戦っても引けを取らないようにって毎日鍛えているから、これぐらいの病気なんてことはない。足の指だって、まだ六本もあるだろ。歩けるし、走れもする。他の皆が「よろけて船から落ちてしまうかも知れないからベッドの上から出てくるなよ!」と心配して言ってくれてる為に自由に出歩けないが。
体が腐っていく痛みや熱なんかには魘されることもあったけど、きっといつかオヤジや船医の皆が治療法を調べるなり見つけてくれたりしてくれる筈だ。



「――それで、容態の方はどうなんだよい」

「元気だぞ?」

「船医やナースの連中はみんな暗い顔してたけど」

「心配性なんだって」


病室に見舞いに来てくれたマルコは胡乱な目つきで俺を見ている。何を考えているのかは分からない顔だが。おもむろに立ち上がって、俺の足元を隠していたシーツを少し捲り上げ、腐って落ちた俺の足の指を見て露骨に顔を顰めた。



「……これ、ヤバくねぇかよい」

「…まあ、ヤバイかヤバクないかで言うと」

「やばいのか」



それだけ言って、マルコはシーツから手を放して、俺からも距離を取った。なんだよ、その顔は。「この間様子を見に来た時よりも酷くなってるな」自虐のつもりだろうか。この間と言うのはマルコが夜遊びをして帰って来てた時のことだ。問い詰めてみてもはぐらかしていたが、女の残り香を纏わせていたマルコ でも俺の体が腐りつつあると言うことを知ってからは夜にも出歩いていないらしい。お前を心配してるんだよ、と言っていたイゾウの言葉と、心変わりをしてくれたという希望で追求するのはやめている。

マルコは「じゃ、様子ももう見たから戻るよい」と言ってドアノブに手をかける。もう行くのか、引き止めようとしたのだが「じゃあな」手を振ってそそくさと病室を出て行く背中に声をかけられなかった。
あいつが出て行ったのを見計らったみたいに、脚部に激痛が走る。熱が上がる。体が腐っていく時の前兆だ。今度はどこからだ? 俺は独りで痛みに悶えていた。





ナマエの見舞いと言うのはあくまでも建前であり、本来の目的はマルコ自身の検診だった。
自分の体にもそれが移ってはいないのかと言うことを危惧したマルコが、船医の下に通い診断を受けていた。結果はクリア。ナマエが現在患っている奇病の元はマルコには見られない。それを聞いて安心する。ナマエが島の探索を終え発病するまでの間に、マルコとナマエはセックスをした。よもや性交渉で感染するような病原菌では、と疑っていたマルコの悩みの種が一つ消え、清々する。


「これでまた歓楽街へ行けるよい」


他の連中のように奇病を患っている者達の為に奔走しても良かったが、まずは何より女に触れたかった。不安を感じてからお預けていたことを解消したい。

放置するわけではないが、
躍起になってやることもなく、
オヤジの身を患わせたりしなければ、手を打つようなことでもない。
元より病気や医療のことについてマルコが口出し出来るほどの知識はなかった。
それに、病気に苦しむ"恋人"にかけてやる献身的な言葉さえも、マルコは持ち合わせていない。

ただ、それだけの話だった