暗い企画 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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ある男の話をしよう。彼の名前はナマエ。年齢はおれと同じで、ついでに言うならば生年月日も血液型も同じ、好物も嫌いなものも似た趣向、海軍に入った年も同じ、身長体重は僅差で彼の勝ち、海軍時代に女海兵から受けた告白の回数はおれの勝ちだった。懐かしい思い出話をするわけではないが、かつての日々にいたナマエの姿はいつも怒っているか笑っているかのどちらかであったことも思い出す。付き合い辛い性格だとよく評されていたナマエだが、おれのような融通の利かない生真面目な男よりもナマエのように表情をくるくると変える感性豊かな男の方が話をしていて楽しいのでは、とも思う。友情が始まったのは、割り当てられた宿舎の部屋が同じだったと言うありきたりなことだったが、お互いに切磋琢磨することが出来ていたと思う。至極簡単なことで軽く怒る奴だが、簡単なことで大きく笑うところがあった。おれがそんな彼の見た最後の姿は、やはり怒っていた。海軍の機密を持ったまま抜け出した海軍兵舎の窓辺に立っていたし、明かりもついていたからよく分かった。ああ、また怒らせてしまったな なんて思いながら私は友と決別をした。大切な友人を海賊にはさせたくなかった。毛嫌いするほど海賊嫌いな奴だったのだ。だからきっと、海軍を辞めて海賊になったおれのこともさぞかし憎まれているのだろうなと考えた夜もある。だがそれは仕方の無いことで、当然の行いなのだ。自らナマエに疎ましがられに行ったのだから。


思いの外ナマエの説明や過去の話が長丁場になってしまった。このままではまたどこかで脱線を見せるかもしれないので結論から言おう。ナマエは死んだ。まだよくおれも実感できていないのだが、事実は変わらない。シャボンディ諸島で多くの海賊と海兵が一同に介したあの日 海上に逃げたものの、すぐに多くの海軍船に我が船を取り囲まれた危うい場面で帆先を向けて立ち塞がってきた海軍船にナマエが乗っていた。久方ぶりの再会で、一瞬言葉を失ったおれに彼は毅然とした態度と声でこう言った。「バァアカ!!」 怒っていた。隣に立っていた彼の副官らしき男が「は?」と言うような顔でナマエを見ていたのが何故だかとても可笑しかったが笑っている場合ではなくなっている。旧友ではなく敵なのだ。仲間のクルーたちが「船長、退路案を幾つか提案いたしますが」と声をかけてくる。まったく優秀な仲間に恵まれて幸運だ。「聞かせろ」「はい、まず一つ目は目の前の海軍船に船長が乗り込んで蹴散らした後に猛スピードで通り抜ける」……前言撤回だ。普段は冷静な彼もこれほど大勢の海軍と対することになりパニックになっているのだろう。しかも目の前の海軍船にはナマエがいる。彼は怒っている時ほど戦闘力が格段にパワーアップする奴だから蹴散らすには一人骨が折れるかもしれないな―――

突然、海面を揺らすほどの爆撃が目前の船から飛び出した。


「な!? なにやってんだあの海軍船!」
「味方の方に大砲ぶつけやがったぞ!」

「…ナマエ…!?」



――笑って いる。おれに向かって、笑いながら手を振って、




「ドレーク!!」

「!」



「――後悔しやがれ!!」





何に、 だれに、


なんて訊き返す間も与えないまま、
ナマエは副官を殴り飛ばし、抑えようと飛び掛ってきた海兵たちをかわしながら次々と砲弾を仲間の船へと浴びせて行く。クルーが「船長!混乱を極めている今の内に脱出をするしか!」と声をかけてこなければおれはずっとその様子を見ていたかもしれない。「あ、あぁ…」なにが起きているのか理解できず、ナマエが作ってくれた好機を利用しておれは生き延びようとしている。
見れば、カポネの海賊船や海鳴り、ホーキンス海賊団も方々に逃げ出そうと船を走らせているではないか。

それに続こうとしているおれは、やはり海賊なのだと、
背後で轟音を立てながら一隻の船が海に沈んでいく様を呆然と見ているしかなかったのだ。





それがナマエの話だ。最後までおれの"友人"でいてくれた、敵だった。
彼の言葉通り、おれは今も後悔している。
ナマエを頼らずにいたことを
これからも。