正直、ナマエはパッと身華やかなタイプの人間でもなければ、万人の人目を引くような男前でもない。たとえ街中を歩いていたとしても、肩さえぶつからなければ気にも留められないような存在感の無さ それはナマエが生き抜く為に身につけた処世術の一つなのかも知れない。 "類稀な"と言う形容詞がぴったりと当て嵌まるナマエの声は、聞く人全ての関心を嫌が応でも引いてしまう。ナマエはそのことを理解できていなかった。おれ達も分からせる気はなかった。気付かせてやるメリットが今のところこちら側に無いからだ。 「前方一時の方角に島影を発見ー!!」 ベポとあれやこれやと話し合っている内にどうやら目的地が見つかったらしい。人間が生活をしている島に上陸出来るのは久しぶりだ。航海図と指針を所定の位置に片付けるベポの姿を尻目に、ローは「ナマエはどこだ?」と船室の外に声をかけた。 すぐに、浮上準備に取り掛かっていたナマエが駆け寄ってくる。 『お呼びですかキャプテン』の使い古したスケッチブックのページをすぐに見せ、反応を窺う。 「別にお前には用はねぇ」 呼びつけておいての物言いにも、ナマエは眉一つ動かさない。それはこのローの行動はよくあることだからだ。 ナマエを呼びつけるだけ呼びつけておいて、本当の用事は別のクルーに言う。悪ふざけの部類に入るだろう。だが文句は言わない。なぜならナマエだからである。 「ペンギン 積荷の点検と照合は終わってんだろうな」 「終わってますよ。ロープと油、新しいレンズに紙類の買い付けが必要ですね」 『コックが』 「――あぁそうか忘れてた。 あとコックからの要望で、二日前の海獣の襲撃で皿が6枚ほど割れたらしく他の食器共々新調したいとのことです」 ナマエからの無言の補足が入った以外はいつものように淀みないペンギンからの報告を聞きつつ、すぐにローは頭の中で必要ベリーを数えていた。 それぞれの島ごとに物価が違うのがネックだった。小物ばかりだが、油は高いかも知れない。 「しょうがねぇ。それは買い付けだな」 決定したローに、呼ばれはしたが所在無く立っていたナマエは一応『自分が』と買出し係りに立候補をしてみる。 ちょっとずつではあったが、ハートの海賊団のためにも社交性を養おうと試みているナマエの成長の変化だった。 しかし ローならずペンギンまでもが軽く笑ってそれを拒否する。 「お前は行かなくていい」 「そうだぜナマエ おれとベポで行って来るからさ」 二人からそう言われてしまえばナマエは尚も言い募る必要はない。そうか、の意を込めて軽く頷いて、それを満足げに見てくるローとペンギンに疑問を感じるだけだ。 以前までは、こんな時は大体ナマエの役目だったのに。 面白半分にナマエを買出し役に任命していたローも、最近は何も言わなくなった。 もちろん雑事は任せてもらえる。しかし島への上陸だけは何故かダメだと言われ、船の番に専念するのが多々 ペンギンも、シャチも、ベポでさえも「島に行こうぜ」と声をかけてくることはない。もちろんキャプテンの命令を無視させるわけにもいかないから、と思っているのかも知れないが、本心は分からない。 「………」 買い物リストを作成しているローとペンギン、地図を手に戻って来たベポを見つめながら、 ――まるで船に閉じ込められてるみたいだな。 僅かにそんなことを考えた。 ナマエにとって、願ってもないことだった筈なのだが。 |