強いて言うならば 奴は「使い捨て」の人間だろうか。 とは言っても、充分利用価値のある使い捨てだが。 「おいナマエ」 「なに?」 「どこへ行ってた」 「店の方で一発打ってきてたんだ。 見てくれ、お陰様で連続勝ちだ。しっかりクロコダイルに還元してきたから、多少の遅刻は許してよ」 紙袋に入れられた酒瓶や銀で出来た装飾品、箱詰めされた煙草を取り出して笑うナマエに、 クロコダイルは全力の侮蔑を込めた顔で「…ご利用、誠にありがとうございまし、た」と思い切りナマエの頭を掴んで机に打ち付けた。 「あだだだ…」 鼻血を流し、痛みによる生理的な涙のせいで目を潤ませた情けない顔のナマエは、クロコダイルからのそんな理不尽な仕打ちにも文句の一つ言わない。 言えないのではなく、言わないのだ。たとえ相手があの"サー・クロコダイル"だったとしても、遠慮をするとか、気遣いを見せるとか、そう言ったものをナマエは抱かない。 とある契約に基づきクロコダイルと行動を共にしている。 ミス・オールサンデー曰く、「私にはまったく理解できないわね」 「呼び出しに遅刻した俺を砂に変えずにいてくれるクロコダイルは優しいなぁ」 そんなところもすきだよ。 ナマエの口から出た言葉は クロコダイルにとっては1ベリーの価値も無い。 しかし、ナマエ自身には1億ベリー以上の価値がある。 だからクロコダイルはナマエを邸宅に住まわせ最低限の生活をさせているのであって、甘ったれた恋人関係なぞを 好き好んで築いているわけでは決してない。 「ナマエ」 「なんだい」 「おれのことが"好き"か」 反吐が出そうだ。 「うん。寝床をくれたし、水も与えてくれる。食べ物も腹いっぱいになるまで食べれるし、暇潰しに最高級カジノで遊ばせてくれる。 これでクロコダイルのことを嫌いになるわけないじゃないか」 「そうか。 それでいい」 ――砂漠を浮浪していた迷い人が、たまたま見つけ口にした 干乾びた果物が悪魔の実だった。 それは、食べた本人には欠片一片の力は与えない"身代わりの実" 自身の生命を代償にして、愛した人を生き返らせることの出来る奇怪奇特の能力 使える手駒を掌中に収めておくことはやぶさかではない。クロコダイルは狡猾で、慎重な性格の人間だった。何事にも万が一はある。自分自身の能力や力を過信し過ぎてはいるが、用心はしておくに越したことはない。アラバスタ王国の乗っ取りを計画している上で、不足の出来事があるかも知れない。その時の為に、クロコダイルはナマエという能力者を利用しているに過ぎないのだ。 クロコダイルは今、ナマエに生命力を与えてやっている。 そしてナマエは、クロコダイルの死後に与えられたそれらを返すことになっていた。 「……単純な奴 だよな」 そう彼は、自嘲気味に呟いた。 |