30万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 不誠実に生きています


「痛いか?」と問うのは最早野暮と言うものだった。
目の前の男が痛みも感じてないのは一目瞭然だ。


絶え絶えの呼吸しか出来てないくせに、どうにかドフラミンゴに嫌悪を与えないようにとナマエは歪んだ笑顔を作ることに必死であった。
だらりと垂れ下がった屈強な腕が、足が、指が、ナマエの顔が、だらしなくあるその様に、ゾクゾクとした高揚感と悦をドフラミンゴは隠し切れない。ムズムズと動いていた口からは遂に ふっふっふ、と笑い声が出てしまった。 それを聞いたナマエの表情が俄かに明るくなる。
しまった、とドフラミンゴは少し後悔した。
そんなただの笑顔より、さっきの顔の方が好ましいのに。


「笑うんじゃねぇ、ナマエ」


ドフラミンゴからの、圧力の伸し掛かった命令によりナマエは再度顔を引き締めた。
そう、それでいい。ナマエは素直に従順に、おれの言うことだけを聞いてればいいんだ。だが、そろそろ褒美の一つを与えてやる頃合だろう。

ドフラミンゴは部屋に置いてあった椅子に落ち着けていた身体をゆっくりと浮かし、天井から手を吊り下げられているナマエの許に一歩一歩近付いた。ドフラミンゴが一つ歩み寄るたびに、ナマエの口がムズっと動く。嬉しいのだ。喜びを隠しきれていない。そんなにおれが好きか、ナマエ 罵声と共に吐き棄ててやろうかと思いもしたが、それはまだ早いと言うもの。もう少しナマエに良い気分をさせてやろう。それは、ドフラミンゴの側にも言えることだった。


「気分はどうだ?ナマエ」

「…はぁ 極めて、普通かと」



こんなに滑稽な返答があろうか? 手足の関節を切られ、皮一枚で己の体の部位が繋がっていると言う状況であるのに!




ナマエは海軍本部の海兵だ。素行も良く、戦闘の腕も申し分なく、周囲の者達からの評判もお墨付きと言う絵に描いたようなエリート将校である。年齢はまだ35と若いが、このまま行けばいずれ海軍本部の上層部に立つ人間に相応しい男になる、と多くの新入りが目標にし、古参の者達が是非部下に欲しいと言うような男だ。誰しもがナマエは幸福だと言うだろう。順風満帆な人生を送れている、羨ましい人だと。



だが実際は、ある日の任務で警護についた七武海の一人から異常な寵愛を受けてしまった哀れな男である。



弛緩し切っているナマエの体の関節に傷を付けたのはドフラミンゴの操る糸だった。完全に切り落としてはしまわないように細心の注意を払って成された。
その部屋で行われていた悪行を目の当たりにした真人間ならば、誰もが「酷い」と顔を背け目を覆うだろう。



ドフラミンゴはこの真人間であったナマエをいたく気に入ってしまっていた。
必要のない護衛と言う、遊び相手として考えるとナマエは最高の逸材だった。何よりもナマエは真面目な男だ。警護対象であるドフラミンゴ、そして七武海と言う立場にあるドフラミンゴの言うことなすことに従順に従うのだ。そして文句も言わない。生来より自分よりも上の立場である人間に付き従うことを良しとする性格をしているらしい。

打てば響く面白い暇潰し道具――ドフラミンゴからのナマエの評価だった


「そろそろソレ、くっつけてもらいてェか?」


ナマエの体の部位をバラバラにしたのはドフラミンゴだが、それを元に戻すのもまたドフラミンゴだからこそ出来ることだ。
今日切り落とした部位以外にも、ドフラミンゴが施した縫合の痕がある。それは腹部であったり太腿であったり手首であったりと様々だ。

糸で切って、糸で縫う。その繰り返し



「……ドフラミンゴ様がもう満足したと仰られるのなら」


ナマエは拒否も懇願もしない。
ドフラミンゴが思うままにすれば良い。

全ての悪行を"児戯"のように寛容するナマエに、
やはりドフラミンゴは愉悦に浸ってしまいそうになった。

ゆっくりとナマエの目線の高さにまで腰を下ろす。ナマエもドフラミンゴに負けぬ大柄な男だが、今は随分と小さくなっている。理由は言うまでもない。


「褒美が欲しいか?ナマエ」


その言葉に、ナマエは初めて"不敵"とも言える笑みを浮かべた



「ください、俺に 貴方を」



―――ああ、




ドフラミンゴはナマエの唇に噛み付いた。
唇の端が切れたようで、つつ、とナマエの血がドフラミンゴの唇を伝う。
しかしそれは些細なことで、意識はすでに外に追いやっており、今はただお互いの口を味わうように動くしか考えられなかったのだ