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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ ピカイラ


海軍本部大将部屋前の廊下でうつ伏せに倒れていらっしゃるのはナマエさんです。
大方"また"放り出されでもしたんでしょう。
いつもにこやかで大らかな海軍大将黄猿…ボルサリーノ殿を怒らせて雑な扱いを受ける部下なんてナマエさんぐらいなものだ。
このまま無視して通り過ぎても良かったが、二等兵である自分よりも階級が何段も上であるお方を放置して行くなんて後でバレたら問題になる。


「ナマエさん? ナマエさん、起きてくださいナマエさん。風邪引きますよ」


コートの上から肩を揺さぶってみれば、くぐもった声を出したナマエさんがゆっくり瞼を開く。今回は存外早くに気が付いてくれました。いつもなら後三回は声掛けしないと目を覚まさないのに。
「…あれ? 俺はまた放り出されたのか?」と何とも呑気な台詞を吐きながら体を起こしたナマエさんと目が合う。「あ、お前はいつもの二等兵君」肩書きで呼ばれているみたいだが気にしないでおこう。ナマエさんはいつもこうだ。


「毎度毎度すまんなぁ起こしてもらって」

「いえ…毎度毎度 黄猿殿を怒らせるナマエさんが凄いですよ…」

「ああそうだった。ボルサリーノを怒らせて俺は投げ捨てられたんだったな。忘れてた」


遂に脳への支障が来たしたか。 すんごい失礼なことを考えてる自分のことなんて知らないナマエさんは頻りに頭を捻り、何故怒らせたんだっけ。を延々考えていらっしゃる。
「なあ、俺ってあいつに何やったと思う?」なんて訊かれても困る。知るわけもないし知りたくもない。お二人が長年連れ添った恋人同士であることは海軍本部中の誰もが知っている話だが、その二人の間でどんなやり取りや喧嘩が交わされているのかまでは知らない。「存じ上げませんよそんなこと…」「そうかー、どうしたもんかなー」謝って許してもらう算段でも整えていらっしゃるんだろう。これは邪魔しちゃいけないな、とほぼこの場から逃げ出す為に「では自分はこれで失礼します」と伝えた。
だがしかし腕を取られてしまう。何故なんですかナマエさん


「まあ待て二等兵君」

「な、何なんですか」

「俺と一緒にボルサリーノに謝りに行ってくれないか?」

「は? ヤですよ!そんなこと!」

「頼む!そこを何とか!どうして怒らせたのかは分かんねぇんだけど猛烈に怒ってたのは分かるんだ!」



人って怒りながらでも笑えるんだぞ! そんなボルサリーノ殿の凄いところなんて知りたくないですよ! やはり腕力でもナマエさんには敵わない。座っているナマエさんと立って踏ん張っている自分なのにこの動かせない力はやはり海軍将校様だ。
でも一刻も早くこの場から逃げたい気持ちはムクムクと大きくなるばかり。いつもなら声を掛けて起こしてすぐに去れるのに、どうして今日はこんなにしつこいんだナマエさん!



「頼む! なぁ頼むよ二等兵君!」

「か、勘弁してくださいってナマエさん!」

「一回! この一回だけでいいから!」

「嫌ですってばああ!」

「何なら金も出すぞ!」

「ナマエさん!」


その時、目の前の扉が音もなく開いた


「………ナマエ〜?」


「ボ、ボル、ボルサリーノ!!」
「き、黄猿殿ぉ!」


立っていたのは勿論と言うか分かっていたことですが黄猿殿でした。いつものスーツのポケットに手を入れて自分とナマエさんを見下ろしている目がすっごい。山なりになってるのに笑っておられない。部屋の明かりがまるで後光のように黄猿殿を照らしていて、ピカピカの実の能力中でもないのに黄猿さんすっげぇ光ってる。ナマエさん、汗ハンパないぐらい噴出してますけど大丈夫ですか?そして自分の命運は?どうなるのこれ?ここで殺されるの?ナマエさんと一緒に?



「さっきから部屋の前でギャアギャア五月蝿いと思ったらさぁ……」

「い、いやあのなボルサリーノ これは」

「何かと思ったら何だい? まるで若い女を誑かそうとしてるオッサンのようなこと言ってさぁ〜…」

「たぶらか…!? 違うぞ、お前、俺はただボルサリーノに謝ろうとしてただけで」

「わっしが怒った理由も分かってないクセに謝られたくないよねぇ」


ほんと一体ナマエさんてば何やったんだよ!! 心の中で叫んだ自分の手をパッと放したナマエさんは飛びつくような勢いで黄猿殿にアタックした。「許してくれよボルサリイノオオオ」だがそれを黄猿さんが受け入れる筈もなく、光の粒子となった黄猿さんの体を抱きしめ損ねたナマエさんはそのまま顔面から床に飛び込んだ。ダサいポーズと蛙が潰れたような声と合わさってとても恥ずかしい感じになっている。

「………」
「…?」

どうしてだ。黄猿殿がじーっと自分を見る。「!?、?」え、なに、なんだ、と思っていると、
黄猿さんはその長い足で倒れているナマエさんの体を蹴り、部屋に無理矢理押し込んだ。



「……君も、毎回ナマエの心配なんてしなくていいんだよ〜」

「…え?」



――バタン!

扉が閉められ、廊下には自分一人だけが残った。
大将室から、微かにナマエさんの悲鳴が聞こえて来る。

それを背中に受けながら、踵を返し漸く歩き出せた。
中ほどまで歩いた頃になって、先ほど黄猿殿に投げかけられた言葉を反芻する



(…あれ、 もしかして黄猿殿、おれに嫉妬してたとかそんなんじゃない、よな?)



ナマエさんに「いつもの二等兵君」と呼ばれるぐらいには、あの人と顔を合わせていた。不幸としか呼べないぐらいの頻度で廊下に放り出されているナマエさんと鉢合わせするからだ。最初の頃は普通に純粋な気持ちで心配して声を掛けていたし、ナマエさんの話や愚痴のようなぼやきにだってたまに付き合ったりもした。

まさかそれをボルサリーノさんが気付いたのではないか?



「…じゃあもしかして、今日のナマエさんと黄猿殿の喧嘩の原因って…」



――おれ?



「……なるほど……黄猿殿もやっぱり、ヤキモチとか妬くんだな…」



謝るべきだろうか? 勿論、ナマエさんに。 いや、やっぱり止めておこう
このまま何事もなかったかのように自分がフェードアウトすれば良いんだ。