▼ おねだり聞き上手
「お前が声出さないのはお前の勝手だけどな、口を開かないってのはいかがなモンかって話だよ ペンギン」
昼食のカレーをパクつきながら、ナマエは大勢のクルーがいる食堂でデリカシーのない事を言った。
他人に自分たちの性事情を臭わせるような発言をしたことに対し「…場所を選んで話を持ちかけろよナマエ」とペンギンはまずそれを叱る。その後で声を潜めて返答をした。
「野郎の嬌声なんざキモイだろ」
あえて聞かせるものでもない。ペンギンはそう考えている。そりゃあ行為の最中に相手が気持ち良さそうにしている声を聞くのは気分がいいものかもしれないが、ペンギンはそうは思わない。それはナマエも同様なので「いやそこは分かってっよ」俺が言いたいんはそうじゃないってと言って、ルーのついたスプーンを左右に振った。
「声我慢すんのは良いけど、口ぐらい開けろよ。べろちゅーも出来んだろうが」
「口を開けたら声が出るから許せよ」
「俺はペンギンとべろちゅーがしてぇんだよ。舌を合わさせろ、舌」
「おれは声を出したくねぇんだよ。い、や、だ」
お互いに頑なになり、意固地になって喧嘩をしたくはない。「そうかよー」と残念そうに引っ込んだナマエはカレーを食べることを再会した。
そう大したことでもなかった。 ただ、ナマエはペンギンの声を聞きたかったし、もっと深いキスもしたいと思った。だが恋人がそれを嫌がるなら強要はしない。それだけのことだったのだ。
「………」
ペンギンは、ナマエの顔を見る。今は皿の上のカレーに夢中になってるあの目が、ペンギンをじっと見据えていたときに確かに落胆の色を見せたことに気が付いていた。
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それは普通の夜だった。
珍しく誘って来たペンギンの手を引いて、今は誰もいない船蔵に連れ込んで、誰がそこに用意したのかも分からない山積のシーツの上にペンギンを引き倒して、求めてくるその要望に答える為に己の欲をぶつけていた、いつもの日だ。
「…っ、…!、」
ペンギンはいつものように唇を、手の甲を、ナマエの肩を噛んで声を殺している。自分のナカをナマエの指が弄るように動いている間も、帽子を取られ露わになった目に涙を溜めて堪えているだけ。もういいな、とナマエが指をそこから引き抜く時も「っ」と堪える声を出して頷く。
「挿れるぞ?」
ペンギンの返事を待たずして入れるのもいつも通り。肩を掴んで溜め込んでいる息を上手く吐き出すこともせず、ペンギンはそれを受け入れるべく待ち構えていた。
ただ、いつもと違ったのはそこからだった。
「きゃあっ、んぅ!」
「……… へ?」
いま なんか 聞こえた
揺さぶろうとした腰の動きを思わず止めてしまったナマエに、高い声を上げた主は下から射殺しそうな目つきでナマエを睨む。 どうだ、と言わんばかりの強い目に、どうしたんだろうと此方が不安になってしまった。
「お……ま、え…が!あん、なっ コト、言うから、だな!」
嫌だけど仕方なく声出してやろうかなって気になってみたんだよ!
怒鳴りつけるようにして言い放ったペンギンの顔は見事に茹蛸のようだった。そう言えばとナマエは思い出す。先日だかにペンギンと、食堂でカレーを食べながらそんな話をしていた。
「…え、でもお前声出すの嫌なんだろ? なら別に無理に出さなくったって…」
「 う、うっせぇな!声出すのは好きじゃねーけど、愛しの恋人サマが言うんなら出すのもヤブサカじゃねーなって思って…! あっ、ん!?」
怒った反動でナカに入っていたナマエのモノに思い切り擦られたらしい。また上げられた嬌声に聞き入ってしまった。ペンギンの声が、あんまりにも可愛いものだから。
「!! おっきくすんなボケ!」
「しょうがないだろ!? ペンギンが嬉しいことしてくれるからだな!」
「アァ!?」
あんまり煽ると照れ症で怒りっぽいペンギンの気を悪くさせるかもしれない。もうこれ以上弄らずに励ませてもらおうかとペンギンの体へと身を寄せると、ペンギンの口がぱかっと開けられた。
「…それはもしかして、べろちゅーしてもいいよって言う…」
「要らんこと言わずにやるんならやれ!!」
怒鳴られながらべろちゅーを強請られたのなんて初めてだ。