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▼ 幸せにばかり、成れるものか


「カクはいいよな」とよく羨ましがってくる奴でした、ナマエと言う男は。


言うなればフクロウは"球体"でしたが、ナマエは"固体"でした。フクロウと同じくらいの巨漢なのに、腕も足も胸板も均等に筋肉が付いたとても屈強な身体をしていたのです。見た目にそぐわず力持ちで、ナマエの両手に掴まれたら細身のカクの体はひしゃげてしまうぐらいに。しかしそれは、カクが一つも抵抗をしなかった場合の話で、実力的に言うとカクが強いことは誰が見ても明白な事実です。ナマエの道力は、500にも満たないのですから。

CP入りを志願している一方で、ナマエは自身がこの仕事に向いていないと言うことを知っていました。諜報、暗殺、潜入を主とするこの暗躍機関において、ナマエのような図体のでかい愚鈍な者はそれだけで篩にかけられます。


それでも尚ナマエがCPのナンバーズと言う位置にいられているのは、やはり腕力があったからです。
裏の仕事は出来ませんが、破壊工作ならお手の物で、ビルぐらいなら一人で潰せました。
それを知っているカクは、いつもこう言うのです。

「ナマエ、かっこいいのぅ」と。

しかし、ナマエはあからさまに顔を顰めました。



「…俺なんかが格好良いわけがない」

「なんでじゃ。とってもクールじゃろうが」

「バカ言うな」


ナマエはいつもカクの言葉を否定します。その後で必ず「カクはいいよな」と言うのです。カクは抗議しています、ずっと。
何故わしの言葉を否定してばっかりなんじゃ。わしの目から見たナマエの評価じゃろう、それなのになんで喜ばん。嬉しくないんか


"カクから見えたナマエの評価" らしいです。ナマエはわらいました。それは過大評価だと。CPの中でもエリートナンバーである9に位置しているくせに、どうもカクは自身の審美眼を甘く設定しすぎているようだと。


カクはナマエよりも随分と細身でした。カクがあと二人横に並んでも、ナマエの体を覆えはしません。腕力もナマエに劣り、得物を使って戦うカクの戦闘スタイルを見ても分かることです。しかしカクはとても身軽です。ナマエがビルを一つ破壊している間に、カクはそのビルに潜入して内部の者達を皆殺しに出来るでしょう。それにかける時間が桁違いなのです。カクは優秀です。きっとこのまま行けば、ジャブラなんてとうに追い抜いて、いずれはルッチと肩を並べるくらい強くなるでしょう。だって悪魔の実を食べていないと言うのにこの猛者っぷり。 本当に、カクは、すごい


「…やはりカクの方が凄い。俺も遅れを取らないように精進しないと駄目だ」

「……わしが凄い言うてくれるんは嬉しいが、どうしてナマエはそう卑屈なんじゃ。ホメコトバとして、何故受け取らん」


カクからの言葉に、ナマエは返事をしませんでした。もういいよ、これで話は終わりだと言うように頭と手を振ってからカクに背を向けます。追いかけようとしましたが、これ以上ナマエは口を開いてくれないような気がしたからです。 カクは落ち込みました。また、上手くいかなかったと。

ナマエがカクに対して劣等感のようなものを抱いているのは何となく分かっていました。なんせ同期です。同じ時期に機関に入った同年代同士と言うことで、ずっとずっと一緒にいて付き合いだって長いし、大体のことなら顔を読めば何を考えているのかを察せられる間柄であると自負しているのです。
努力家で真面目なナマエが、「大丈夫だカク。きっとカクなら、つよくなれるよ。一緒にがんばろう」と言ってくれたから、厳しい修行・訓練・拷問にだって耐えて来れました。

だから、
今度は、
カクがナマエに言葉をあげようと思っているのに、
ナマエはカクの言葉を、聞いてくれようとしない



「……なんで、じゃあ…」


分からない。
どうして自分では駄目なのだろう、とカクは僅かばかりに目に水滴を溜めました。
自分はナマエではないと駄目だったのに、どうしてナマエはカクじゃなくても良いんだろう。



もうすぐカクは、長期の任務に出立する。ウォーターセブンで受けている内容は、数ヶ月なんかでは帰還出来ない、数年は要すると理解していた。
更にナマエとの間の溝が深くなってしまうのかも知れない。


何せカクはまだ"成長"し続けている。数年前から同じ場所で"停滞"し続けているナマエとでは、見る世界も感じる風景もまた、擦れ違って行ってしまうのだ。