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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 塞ぐ必要はないのです


スパンダムは基本的に"使えない奴"と"自分の話を聞かない奴"が大嫌いだった。

司令長官と言うとっても偉い立場に就くよりも前からコネと七光りで威張り散らしていたスパンダムの存在は、無視したくても出来ないもので、機関の多くの人間たちは スパンダムを嫌々思いながらも立ててきていた。スパンダムにとってそれはとても気持ちの良いものだった。ファンクフリードをいつもの二十倍可愛がるほどご機嫌になれたものだ。

しかし、だ。 特例が一人いた。ルッチやジャブラやフクロウなどとは違って、露骨にスパンダムと言う存在を蔑ろにするような奴が



現に今も長官からの話の途中だと言うのに呑気に目を閉じている男に向けて、スパンダムは声を張り上げた。


「んナマエー!!!このおれの話をちゃんと聞けっていっつも言ってんだろうがテメェー!!」

「・・・うるさいな」

「小声でボヤいたって聞こえてっからなァ!」



寒さを防ぐ冬場のイヤーマフのように、己の耳を外界の音から完全遮断するように作られたオーダーメイドのヘッドホンを取り外してナマエと呼ばれた男は嫌悪丸出しの目でスパンダムを見た。ようやくだ。ナマエがスパンダムの部屋に入室して来てから かれこれ20分


10km先で針が落ちた音も拾える……なんて超人的なことをやってのけてみせるナマエと言う男は、いつもこんな調子だ。

良すぎる聴覚は諜報活動や情報収集を主とするサイファーポール内において、ナマエの存在はずっと重宝され続けてきた。どんな密談も彼の前では大声で話し合っているようなものになる。身のこなしやフットワークも軽く、その気になれば何処へでだって潜入し重要な情報を持ち帰る、仕事ぶりだけを見れば、素晴らしいエリートのように思えるだろう。だがその仕事ぶりを仇で返すぐらい性格が悪い。

ルッチやジャブラはまだ良い。彼らは嫌悪しつつも表面上はスパンダムにきっちり従っている。
しかしナマエは違う。なんせ前述の通り話を聞かないところから始まるのだ。
どんな些細な音でも拾ってしまう身体故に、大声や濁声なんかを煩わしがる。ナマエにとって正にスパンダムの声こそがそんな感じだった。



「さっきおれがテメェに言い渡した指令を復唱してみろ!!」

「"ロブ・ルッチ諜報員、他カク、カリファ、ブルーノの4名と共に"偉大なる航路"ウォーターセブンにて古代兵器「プルトン」の設計図確保を目的とした諜報活動を行う"」

「その通りだバカ野郎!!」


これ以上腹を立たされてはたまらない!「以上だ!出てけ!」「了解」出て行く背中にファンクフリードでもブッ刺してやろうかと考えたが、もしそんな事をやってナマエを喪ってしまえば、多大な損害を受けたと政府機関がスパンダムの始末をすることだろう。
如何にかしてやりたいのに如何にも出来ない。スパンダムはナマエが大嫌いだった。








「お、話し合いは終わったか?ナマエ」


先の廊下で立って待っていたカクは気軽にナマエに声をかけた。
遮音目的の為にスパンダムの部屋を出てからもしていたヘッドホンを取って、「話し"合って"はない」とカクの言葉尻を捉える。そらそうじゃ、とカクは朗らかに笑ってみせた。

スパンダムの声は大嫌いだったが、カクの声は好きだった。低くてよく耳に通る、良い声をしている。
ナマエは、スパンダムが見れば青筋を立てるレベルで機嫌の良い声だ


「この後ルッチが部屋に皆を呼べじゃと」

「何の用だと?」

「ウォーターセブンに赴く前に酒でも飲もう思うたんじゃろ」

「へえ」


ナマエは明るい声を出した。大きな身体に見合った分だけ飲む程の酒豪なのだ。
ああ見えて身内のメンバーたちには情を見せることもあったルッチもナマエは好きだった。とかく、声が心地好いものは好きだ。カリファの凛とした声もいいし、ブルーノの落ち着いた声も好みである。ジャブラは喧しく、フクロウは騒がしいし、クマドリもまぁ論外枠だったが身内補正と言うことで。だがスパンダムは駄目だ。



「……ルッチがボトルをテーブルに並べた音がした」

「…相変わらずやるのぅ。ワシには何も聞こえんわ」


他にも、同じく部屋に向かっているカリファのハイヒールの音、ブルーノの一歩一歩が重い足取りの音、行かないと決めているジャブラが自室で鼾を掻いている音、クマドリがよよいよいと歌舞いている声や、フクロウがチャパパと笑う声もする。敢えて付け加えるなら、スパンダムがくしゃみをした声も。



まったく、うるさい世界だよな。そう呟くナマエ だが、嫌だと思ったことはない。



「ウォーターセブンでカクたちはガレーラカンパニーの船職人に扮するんだろう?」

「そうじゃ。ワシは船の模型とかを作るんが好きじゃったからええが、ルッチなんてどうなんじゃろうな」

「ルッチは器用だから大丈夫だろう。カリファは秘書になるんだってな、ピッタリだ」

「それを言うんならブルーノもじゃ。どこぞの店か酒場かを借りて店主になるんじゃと。想像するだけでドンピシャもんじゃ」

「確かに」

「で、ナマエが普通の町民、と」

「……当たり前だ。大勢の人間がいる会社勤めなんぞ出来るか」

「それ、今の立場でも言えることじゃろか」

「うるさいぞ、カク」

「ちゃんとナマエを慮って小声で話しとるじゃろー」



ルッチの扉の前で鉢合わせたカリファとブルーノが「早く来なさいよ二人とも」「あんまり待たせるとルッチが怒るぞ」と、カクとナマエに声をかける。
カクが「何じゃ、二人とももう来とったんか」と言う。ナマエは、そのことを随分前から分かっていた