30万企画小説 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ エマージェンシー、笑う支配


「………」
「……!」
「…」
「!!!」
「……」
「…!」



二人の人間が、何か言い争っているような声が微かに聞こえて来た。

サニー号の上層部からその現場を覗き込んだウソップはポップグリーンに散布していた虫除けスプレーを置いて、「まぁたやってんのかよあの二人は〜…」と面倒ごとに巻き込まれるだろう事は重々承知した上で、自ら首を突っ込むことにした。第三者が介入してやらなければ二人の人間……サンジの方は、いつまでも相手に向けて言葉をぶつけ続けるだろうから。


「おーい その辺にしとけよ二人ともー」


せっかくわざわざ降りて来てやったのに。駄目だ、ちっとも聞いちゃいやしねぇ。いや、一人は顔を向けてくれた。「やあウソップお疲れ様」――アリシアだ。艶のある茶髪のロングヘアーを風に弄ばれながら、細められた目と形の良い唇でじんわりと笑顔を作り、お淑やかに手を振る仕草は 本当に美人だ。毎日見ていてもドキッとさせられてしまうぐらいの美人なのに、
そんな美人に向かって、超絶フェミニストなサンジはまたも怒鳴り声を上げた。


「だから喋んじゃねぇって言ってんだろうが――ナマエ!!!」


理不尽なことを言われているのに、ナマエ――と呼ばれたアリシア――はちっとも気にしていない笑顔で「ごめんねサンジ君」と言ってまたサンジに怒られた。声を発するな、と。おれに現実を突きつけてくるな、と。



ナマエは生粋の男だったが心は女だった。本人は「人畜無害なオカマちゃんだよ」と言うが日々サンジに与えている心的ダメージのことを考えるとちっとも無害ではない気がする。名前はナマエ、偽名はアリシア(本人はこっちで呼ばれたがっている)年齢は不詳だがサンジの見立てではおそらく20代中盤とのこと。身長はフランキーの次に高く、サンジの頭ですらナマエの胸のところにしか届かない。女装が大好きでボン・クレーのような中途半端なメイクではなく本当に"女性"を作り上げる化粧を自らに施し、長袖ロングスカートの服の下に引き締まった筋肉を完璧に隠していてパッと見は本当にただの美女なのだ。仕草も表情もどれを取っても女性を研究しより女性に近付くにはどこをどうすれば良いかを日々研究している。性癖は人それぞれあって、この船にナマエのそれをどうこう言う奴はいないがただ一人、出会った時からずっとこだわり続けている奴がいる。それがサンジだ。


「なんっっで見た目は完璧なのに声は男なんだよ!バリバリに低いテノール声しやがって!それが一番"テメェ"を台無しにしてんだろうが!」


サンジに責められてもナマエはニコニコと笑って聞いている。その"女性の笑顔"に「あぁ可愛い…!」とサンジがデレっと顔の筋肉を崩したところへ「ありがとうサンジ君」と口に出してまた怒りを買っているのだから、たぶんナマエはサンジで遊んでいるのだ。

反応を見て楽しんでいる、のもそうだが、サンジほどナマエを"女性"として扱い、"男性"として見ている者もいないんだろう。
全力で"ナマエ"と言う人間と、"アリシア"と言う人間を求めてくれるサンジのことを"ナマエ"はとても気に入っているんだ。



「サンジ君て、とっても理不尽な子だよね」

「ナマエも日々楽しんでんなぁ」

「うん。サンジ君のことが好きだからさ」




低い声で笑う美女は本当に楽しそうに、顔を真っ赤にさせながら怒っているサンジを見て笑った。