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▼ 助けて


変に暇な時間が出来たからやれ日向ぼっこでもしようかと意気込んだナマエの背中に、それは張り付いてきた。
むにゅり―――男ならば誰でも喜んでしまうであろう柔らかな感触を背に受けながら、飛び掛ってきた相手を諌めるべくナマエは若干の笑顔を貼り付けたまま振り返る。


「……当たってるんですけど、エース」

「当ててる!」


何とも晴れやかに宣言したポートガス・D・エース隊長は、ナマエと眼があったことに対して大層嬉しそうに顔を綻ばせた。いつの間にか腰を一周するように回ったエースの腕はポカポカとした温かさがあり、長時間の船の上での作業で冷え切っていたナマエの身体をじんわりと温めている。このままエースを腰に引っ付けたままする日向ぼっこは、さぞかし気持ちが良さそうだ。 だがエースと一緒に、はちょっと御免被りたいところである。 エースは、大人しく、静かに、日向ぼっこなどが出来る性格ではない。 ナマエは静かさを求めていた。


「…俺は今から仮眠をとりたいんで離れてくれますかね」

「そうだろうと思ってやって来た!わたしも一緒に寝る!」

「え、エースも仕事ちゃんと終わらせたんで…」


「終わってないだろうがよい、エース!」



戯れるように甲板に寝転んでいたエースとナマエの頭上から降りかかってきた声に、ナマエはおお正しく天よりの助け!と安堵の息を吐く。 喜んだナマエと正反対に、エースはこれでもかとばかりに顔を顰めた。そばかすのある愛嬌たっぷりのエースの顔をこれ程に歪められる存在もそう多くはいないだろう。――腰に手を置いて仁王立ちのまま見下ろしてくるのは、一番隊隊長のマルコ女史である


「お前のとこの隊員たちが泣いてたよい。マストと帆の清掃、まだ終わってないんでしょうが」

「あんな所、わたしがいなくても充分でしょう!」

「ばか!無責任なこと言うのはやめなっていっつも言ってるじゃない!――あとナマエに必要以上にくっつくなこの半裸女!!」



ああ、どうやらそっちが本題だったらしい。
絶妙な加減により上着で隠されているエースの上半身裸スタイルもそうだが、自分だって負けないくらい露出の多い上半身をしているくせに、マルコは自身を棚に上げたままエースをナマエから引き剥がそうとしている。
マルコに引っ張られるエースに引っ張られるナマエの首は、かなり絞められていた。


「あたしはちゃーんと仕事を終わらせた。だからあたしがナマエと一緒に仮眠をとるからエースはあっち行けよい!」

「マルコみたいなおばさんと寝るよりわたしみたいな若い女と寝る方がナマエだって嬉しいと思ってるよ!」

「なに…?もっぺん言ってみろよいエース!!」

「おばさんマルコー!!」



「…た、助け……」



愛憎の狭間で殺されるとか、ほんと勘弁してもらいたい。
ナマエは、ただ静かに休みたいだけなのに。いつもいつもこの愛する者を愛するのに忙しい女たちの手によって、平穏とはかけ離れた船上生活を余儀なくされている。

そろそろ気道の確保が難しくなってきた。虚ろな目で誰か他に人はいないか、と視線を巡らせる。
すると、一人の男が船室から口笛を吹きながら出てくるところだった。



「サ―――サッチ隊長助けてぇえええ!!」


可能な限り大声を張り上げる。 そのナマエの声がした方向へと顔を向けたサッチが、自分の隊の隊員が危機に瀕していることに気が付いた。大慌てで、大股で近付いてきたサッチにいがみ合っていたエースとマルコも気付く。



「ナマエー!?おおおおい大丈夫かあああ!!」

「へ、へるぷみぃい…!!」

「こぉらっお前らぁあああ!うちの可愛いナマエ死なすなバカ野郎!!」

「あっ!また出たなお邪魔虫サッチ!」

「ぶっちゃけアンタが一番羨ましいよい!」

「お前ら女二人組の愛が重すぎてうちのナマエが死にかけてんだよいい加減にしろ!」



大切な弟分を救おうとサッチは力の抜け切っているナマエの手を取って引っ張ろうとする。だがそれを阻止するべくエースはより一層ナマエの腰に巻きついている腕の力を強くした。「ナマエに尊敬されてるからって調子乗んなサッチー!」我侭な子どものように叫ぶエースによってナマエのズボンは脱げかけだ。 このまま脱がされるのも勘弁してとナマエは泣きかけだ。 そのナマエのズボンを逆に上に上げようとしてくれているマルコも、負けじと声を上げる。


「サッチ!いい加減うちの隊にナマエを明け渡すよい!」

「あっズリィぞマルコ!サッチ、わたしもナマエ欲しい!くれ!」

「誰が渡すか!!ナマエをみすみす肉に飢えたライオンの檻の中に落とすわけねぇだろーが!」



――…ああサッチ隊長、その意気です頑張って俺を守ってください…。

腕、腰、それと足を四方から引っ張られもう限界が来たナマエはそのまま眼を閉じた。
起きた時に自分の体がエースの許にあるのか、マルコの許にあるのか、頑張ってくれたサッチの許にあるのかは、予想も出来ないことであった。