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▼ こうするしかない


3時間前にも顔を合わせたナマエの姿と今の姿とでは様相が様変わりしていた。素通りしても良かったけれど「まあ立ち止まれミス・オールサンデー」と指摘して欲しがっている声がかかったので、仕方なく「…なぁに?」と立ち止まってあげる。


「――いつ見ても変わった趣味をしてるのねぇ、あなた」

「相変わらず着眼点がズレているな。見るのはそこじゃぁないぞ」


「ここだ、ここ」ナマエの体を会社の壁に縫い付けてあるもの――それは砂だ。四肢に纏わりついている砂のせいで最小限の身動きしか取れないナマエが、ヒラヒラと手や足を振って見せる。オールサンデーはそれを見て「あらぁ」と緩い相槌を打った。特に驚くべき理由でもない。ナマエがバロックワークス社の壁にこうして磔にされている様子を見るのは、これが初めてではなかった。



「今回は何をしでかしたのかしら?」

「なにも。いつもの様にディーラーの子に声をかけただけだ」



それをしているのだと言う。ナマエはとても働き者で仕事熱心な男だったがプライベートな面ではだらしのない性格をしていた。自分の好みに合う女性がいたら声をかけずにはいられないのである。その大半が会社で働く従業員の女であったり、カジノに足を運ぶ客の女であったりと節操がない。しかし、それらの行動が許される程度には、ナマエは整った顔つきをしていた。彼が本気で女性を口説きにかかれば、落ちる女は多いだろう。オールサンデーのように出会い頭の告白を蹴る女性もいたが、大半はそれに応じる者たちだ。
けれど今までにナマエの告白が成功した例はない。何故か。理由は見ての通りである



「迂闊だったんだ。よもやディーラーに声をかけていた俺のすぐ後ろに社長が立っていたとは想像してなくてな…」


それでこうされてしまったのだろう。見せしめ目的ではなくただ単に磔の刑に処されたナマエの心境は元より、それを行った社長の心境こそ推して知るべしである。体の水分を抜かれ、枯れ殺されるよりは今の状態の方が何倍もマシなのには違いないと言える。



「お…?」

「あら」


ナマエの四肢を拘束していた砂が離れて行く。
無事に解放されたナマエは難なく廊下に降り立つと、凝っていた肩を回し始めた。バキバキと鳴っていることから、結構な長時間あの状態のままであったことが推測できる。しかしナマエの顔には何の疲れもない。そればかりか、笑っていた


「さて――んじゃお許しが出たんで、会いに行ってきますか」

「そう? それじゃあね、ナマエ」

「ああ、またなオールサンデー あんまり俺に近付くなよ? 嫉妬されるぜ」


誰に、とは言うまでもない。「ええ、気をつけるわね」なんて心にも思ってない事を笑顔で言って去って行くオールサンデーとは別の方角に向いて歩き出す。
それまでナマエを拘束していた砂がその背中や腕にと纏わりついて――まるで甘えるように――ナマエを目的の部屋にまで導いていた