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▼ ユースタス・キッドの場合


アーモンド型の目をきょろきょろと動かし、口から火を吐くヒートの姿を大地龍は興味深げに見ている。「どうだ?」と得意げにして見せたヒートに『人間も火が出せるの』と関心して見せた。
そんな一人と一匹の様子を見ながら面白くなさそうにしていたキッドが「おれも見ろ」と言ってズカズカ一人と一匹の間に割って入って行くのを見ながら、キラーは呆れた。


――最早マスコット扱いじゃないか



最近のキッドの行動を見て、キラーはマスクの下で溜息を吐いた。
すっかり捕まえてきた大地龍の雌に執心している。可愛がれば可愛がる程気に入って行っているらしい。何度冷たい反応を取られても、あの男にしては珍しく めげないと言うか、懲りないと言うか、諦めないし蔑ろにされても怒らないのだ。
たまに機嫌を損なわせて火の息を吐かれても、それもキッドにとっては微々たる問題なんだろう。見てくれ、あんなに笑顔だ



「聞け、キラー」

「…なんだキッド」

「あの龍に名前をつけた」



ほう。あの大地龍を捕まえてそろそろ一週間かと言う頃 遂に名前を付けるようだ。もうそうなって来ると、いよいよもってマスコットだ。船全体の雰囲気と調和しているからと言って、あんなに大きな生物をこの先ずっと所有したままでいるのは難しいと思うが…とりあえず今は船長の話に耳を傾けるのが良い。傍らで頬杖をついていたヒートが「何て言うんです?お頭」と促す。フフン、と笑ったキッドが言う



「"ナマエ" だ」

「ナマエ、ですか」

「…由来は?」

「由来? ねぇよンなもん」

「………そうか」



聞けと自分から言っておいてその反応はしなくてもいいだろう。大方なんとなくでつけた名前だと思うが…
ヒートはその名前が気に入ったようで、「じゃあ他の奴らにも教えてきますね」と言って船室を出て行った。

ヒートが開け放したまんまの扉から外の様子が見え、甲板で空を仰ぎ見ている大地龍……改め、ナマエの姿が飛び込んで来た。
「お」と声を漏らしたキッドはそのまま嬉々とした様子でナマエに近付く。



「よぉナマエ 何見てたんだ?」

『……ナマエ?』


当然、聞きなれない単語に首を傾げる龍の雌にキッドは説明をしている。その様子があんまりにも楽しそうなのでキラーもとやかく思うのを止めた。今のところあの大地龍が何かやらかしたこともないし、船長のご機嫌を取ってくれるのも有り難い。



コックに水を貰えるよう頼む。
「あの龍が結構飲んじまったから、少しだけだぞ」
……前言撤回すべきか?