30万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 虹色


スーパーに行こうと思ってた。
常備してある目薬が切れたのと、凝った肩に貼る湿布がなくなって、ああ それとビタミン剤も
とにかく色んなものが足りなくなったから、時間の空いたお昼にでも向かう予定だった
それなのに、出発直前で訪問者が来た。うちの人の秘書をしている女の子だ。
何故こんな時間にこんな場所へ? 焦った私に秘書ちゃんはごく普通のトーンで
「アイスバーグさんを知りませんか?」と訊ねてきた。 え?



「え、知らないよ? 会社にいないの?」

「いなくなっちゃいました お昼休憩をすると言われた20分の間にどこかへ行ってしまわれたみたいで…」



相変わらずな秘書ちゃんの年不相応な物言いに感心しつつも、いなくなってしまったと言う うちのアイスバーグの心配をしなければ

お昼ごはんを食べに定食屋に出かけたのだそうだ。秘書ちゃんもそれを見送り、自分も昼ごはんを食べようと食堂に向かった。
そして時間が来ても帰って来ないアイスバーグを不審に思い定食屋へ迎えに行くと、店主が「アイスバーグさんなら5分ほど前に会計済まして出て行ったよ」と教えてくれたのだと言う
その後からだ 消息が掴めず、今に至るのは



「本当に…… ごめんね、迷惑かけちゃって」

「いいえ ナマエさんが気にされることじゃありませんから ご自宅にも帰ってらしてないんですよね?」

「ええ。電話は?してみたの?」

「子電伝虫は社長室に置かれっ放しだったんです」

「……そう」



子電伝虫を携帯せずに外出とは、それが社長のやることだろうか
きっと秘書ちゃんだけではなく、他の社員の皆様にも迷惑がかかっているんだろうと思うと本当に申し訳なくなる。気にしないで、とは言われたけれどやはり気になってしまうから



「…じゃあ私の方でも探してみるね 見つかったら、ちゃんと会社へ送り届けるから」

「是非にお願いします 今日中に終わらせないといけない仕事がたくさんありますので」

「分かったわ」

「では、私はこれで 失礼します!」



秘書ちゃんが眼鏡を押し上げて会釈をするポーズが、先代秘書の方にそっくりで何とも言えない気持ちになった


それはともかくとして、本当に何処へ行ってしまったんだろう
サボタージュ、とは聞こえが悪いが、嫌な仕事、自分がしたくないと思う仕事を放置してしまう癖があの人には昔からあった
やりたくないと駄々を捏ねるのはいけないが、何となく可哀想だからと叱ることをして来なかったのがいけなかったんだろう
今はウォーターセブン全体が復興の為に一丸となって動いている真っ最中だ。
それなのにガレーラカンパニーの社長であるアイスバーグが仕事をサボってほっつき歩いているなど、他の街の皆さんの士気に関わるやも知れない。

悶々と考え、とにかくスーパーへ行くのは後回しにして自分も街を散策してみようと考え玄関に向かった。
動きやすい靴を履こうと戸棚を開いたその時 何の予告もなしに秘書ちゃんが出て行ってから鍵を掛けてなかった扉がバタン!と開いたのだ
「っ!?」 驚いて身を竦める が、入って来た人物が誰であるかを認識した途端、特に思考もせずに強く言葉を言い放つ



「? んまーナマエ? 何処かへ出かけるのか?」

「あなた!!」



何かの入った茶色い紙袋を抱え惚けた顔のアイスバーグがドアノブを握った姿で立ち止まっている。
私が強く名前を呼んだ意味も分かっていないのか、「なんだ、大声なんか出して」と不思議そうだ



「なんだ、じゃないわよ! 今さっきまで此処に秘書ちゃんがいらしてたんだから!」

「え? 何でうちに?」

「あなたが昼休憩の後から姿を消したからでしょうが!」



ペチリと肩を叩いて非難すれば、「………あー!!」とアイスバーグは合点が行ったようだ
「そうだ、時間を確認してなかった。すっかり忘れてた」と言い、「それはまあ後で謝るとしてだな」なんて軽い調子で言いながら、ほら、と手に持っていた紙袋を手渡して来た。
私の方だって色々言いたいことや言わなくちゃいけないことがあるのに、何?



「…なぁに、これ?」

「何って、見てみれば分かるじゃないか」

「………」



不遜な態度に言葉を失くしつつも言われた通りに袋の中身を覗けば、真っ先に目に飛び込んで来たのは大量のビタミン剤だ


「……ビタミン剤に…目薬、湿布とキッチンペーパーにお風呂用洗剤…??」

「買って来ないといけなかったのはコレぐらいだったよな?」


え、まさか
私が目を見開けば、「朝確認して、無いって言ってただろ?」だからおれが買いに行ったんだが



「……わざわざ? どうして? 今までこんな事してくれたのって、ないよね?」

「うーん、んまー何となく、だな。特に意味はない」


全く一体、ウォーターセブンが誇る大会社の社長様に何をさせてるんだろう
日用品の買い付け?昼休憩の時に?しかもその休憩時間を大きくズラさせておきながら?


嗚呼 本当に 秘書ちゃんになんて弁明をしよう 理由は私だったみたいです、ほんとにごめんね?


クシャクシャになるまで紙袋を掴んで抱き込めば、「んまー 熱烈なハグを何故袋の方にするんだ? そこはおれじゃないか?」なんて言うからもう一度肩を叩いて、それから「ありがとう」