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▼ 深く語るべきではない第一の話


ナマエはごく一般的な感性の持ち主であった為、号泣した。
閉じていた目をもう一度開いた時に、全く知らない土地に自分一人が立っていたら、普通の女の子ならば不安に駆られ心細さに因って泣くだろう。ナマエも泣いた。例に漏れず号泣だ。身に着けていた学校指定の紺色の制服の上に、ボタボタと大粒の水滴が降りかかり染みを作っている。 だが、ナマエを不安にさせているのは見知らぬ土地であると言うことだけに留まらない。ナマエの泣き声を聞きつけた近隣住民の者達が、なんだ なんだ?と寄って来た。普通ならそこで安堵なり安心なりするものだ。 だがしかし、近寄って来た彼らの姿を見て、ナマエの不安感は煽られる。 口と胴体がついた魚が立ってる――
絶対に言い切れる。"あれ"は、普通の人間ではない。
可笑しな夢を見ているんだ、絶対にそうだ。そう、自分に言い聞かせてみたナマエだったが、どこか冷静な理性はそれを違うと判断する。こんなに鮮明な夢は見たことも感じたこともなかったし、現に今ナマエは自分の足で立って、地面のような柔らかい砂を踏み締めていた。
周囲を取り囲んでくる奇妙な魚の人間たち――魚人の数が次第に増えてきた。それに伴ってナマエの耳に飛び込んで来るヒソヒソ話の数も増える。


"あれは何だ?"
"奇妙な服を着ているニンゲンだぞ"
"どこから来たんだ?今日は入国した海賊船はなかった筈だ"
"ずっと泣いてるわね。気味が悪いわ"
"憲兵を呼ぶか?"
"いえそれよりも国王に連絡した方が…"


海賊船――憲兵――国王―― すごい。こんなに耳に馴染みのない単語が聞こえてきたことはない。 俄かに漂ってきた不穏な空気に、ナマエはひくっと嗚咽をしながら一歩後ずさった。 何かがおかしいと言う気はずっとしていたが、改めて自分の身に危害が及びそうな気配に心臓は早鐘を打つ。"殺されるのではないか――"そう思った。あんまりな話だ。ナマエはただ、学校に補習で残っていてうとうとして眠ってしまっただけ。それなのに目を覚ませば変な場所にいて、殺されそうになるだなんて。もう悪い夢だ、と思うことも出来なくなった。集団の数が更に増えたのだ。溢れ返る野次馬のような群集を掻き分けて、何者かが開けた場所で泣いていたナマエに近付いて来る。 その一際大きな存在が、ナマエの前に現れた時、ナマエはまた別の意味で目を見開き驚いた。



「 ――何じゃ。島の者達が慌てておったから何事か思えば…ただの女子じゃないか」



「ジ……、!?」




――ワンピースの、ジンベエっぽい、って言うか見間違えようがないくらいそっくりなジンベエっぽい人?がいる









それがナマエとジンベエの最初の出会いだった。その後紆余曲折、すったもんだの出来事はあったが、多くは語る必要がない。ナマエはただ泣いて、どんどん面白いようにパニックを起こた。そんな彼女を何か、哀れな者を見るような目で見たジンベエが保護を提案しただけである。