30万企画小説 | ナノ
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▼ ブローク・ウォール


「グッドアフタヌーン・ゾロ君! やあ、今日もまるで清い大地の山々で輝く新緑たる毛髪と深い海底に差し込む光たるやその双眸! ああ本日も愛い!実に愛い!!今日こそは私と結婚ないし我が海賊船への乗船をし」
「うっるせぇなテメェは毎日毎日!! あっち行け!!」




「やあルフィ、ウソップ 俺も釣りに混ぜてくれ」
「おっ今日は結構早かったなナマエー!」
「ほらナマエ用の釣竿 昨日の内に磨いといてやったぜ!」
「有り難いぞウソップ!褒めて遣わそう!」



いくら"偉大なる航路"広しと言えど、他海賊団の船長同士が船縁に腰を並べて釣りに勤しんでいると言うのどかな光景は、麦わら海賊団とナマエ海賊団だけで成立するものではないだろうか。


「反応し飽きたぜ」キッチンの窓から甲板を見ていたサンジは、皿洗いの手を休めるでもなくそう呟いた。その言葉を聞いていたロビンはサンジが作ってくれた間食のサンドイッチをぱくつきながら、「あの船長さん、それ程前から来ているの?」と問いかける。


「そ〜うなんだよロビンちゃ〜ん! あいつ…ああ、ナマエって言うんだけどさ。一体どんな硝子玉かトンボ玉してんのか、マリモ目当てに毎度毎度ああやってうちの船に来やがるんだよね〜」
「あら…ゾロを? それはまた珍しいこともあるのね。何か、きっかけが?」
「おれは知らないなー…。当事者なら知ってるんだろうけど」



事情を聞いたことはないがあの男、ある日突然ゾロを追いかけて麦わらの船に付いて来た。
最初の頃は構えを取っていたルフィも、ナマエの船の規模にビビっていたウソップも、今ではああやって仲良く釣りをする仲にまで至っている。

どうしてそうなった、と言いたい。が、船長が問題視していないことに、船員が余計に首を突っ込んで関係を悪化させるのも良くはない。
第一、この問題は全て、ゾロに背負わせるべきなのだから。





「見てくれゾロ君! こーんなに大きな鮪を釣る私に、惚れたりなんてしないかい!?」
「しねェ」
「リリースだ鮪よ!ゾロ君が魅了されるぐらいの大魚になって帰って来い!」


元気よく釣り上げた釣果を仰々しくリリースし、再度船縁に腰掛けたナマエの姿をウソップはやれやれとからかった。


「だーからな、いつも言ってやってんだろ?ナマエ。 ゾロの気を惹きたかったら魚じゃなくて酒なんだよ。肴より酒、だって!」
「…むぅ、しかしだな。今俺は航海中の身 おいそれと貴重な酒を手に入れる手段が…」
「おいこら!お前のゾロへの想いはその程度なのか!見損なったぜナマエー!」
「お…!おぉ、そうだなウソップよ!良いことを言うではないか! その通りだ!剣豪を手中に収めるには、犠牲を払っても然り!これが諸刃の剣か!!」
「そうだナマエ!言ってる意味はわかんねーけどその通りだ!」



あれだ。お調子者のウソップが冗談でナマエを焚きつけるからああなってしまう。

ウソップに対し高らかに宣言しているナマエの姿を 背後で刀の手入れをしつつ窺っていたゾロは露骨に眉を顰めた。 面倒くさい。ゾロの胸中にある心情は、このたった一言である。

ナマエとの出会いは、何の変哲も無い出来事だった。ゾロでさえ忘れていたような程度のもの。
ある島の街の酒場で酔っ払っていたナマエが、町のゴロツキたちに絡まれていたのを助けてやった。それだけである。
酷く泥酔し、武器の一つも所持していなかった丸腰の男
ゾロがナマエを助けてやったのは親切心からではない。ただ単に"呆れた"からだ。情けない、とも思っただろうか。

ともかく、ゾロからしてみれば、ナマエの行きすぎな恩情は迷惑千万
毎度と飽きぬ好意を示されても、ゾロがその気持ちに答えることは未来永劫あり得まい。




「ゾロ君!」
「――うおぉっ!? て、てめ、急に近付いてくんな!!」
「む? 私の気配によもや気付いていなかったのか! ははは!ゾロ君、君でもそんな時があるのだな!ますます以って愛い!いいぞいいぞ人間誰しも油断があるものだ!私はそんな君でもマルッと受け止めてみせるぞゾロ君!」
「ああああああうるせェ!どうしてテメェは口を開くと一言一言がんなに長ェんだ!」
「君の前ではどんな言葉を使ってみても私の想いなど十も届けられないのだよ!なんて私は無力なんだ!――む、すまないゾロ君 そろそろ我が船に帰る時間だ。我が部下たちがああして船縁から物寂しい目で見つめて来るものだからな。寂しい思いをあまりさせては可哀想だ…しかし!いつもの如く君との別れも胸を穿つ程の哀しみ!嗚呼!ゾロ君が私の嫁となればこの痛みともお別れだと言うのに…!」
「別れっつったってどうせ明日にはまた来てんだろうが!!」
「その通りなのだよゾロ君! ――ではな、ルフィ、ウソップ、その他残りのクルー達そしてゾロ君!!また会おう!」
「来んな!!」
「おう!またなー!」
「ルフィ!!」



ははは、と最後まで笑い声を残しながら自分の船に戻って行くナマエ


あれで3億の賞金首なのだから本当に"偉大なる航路"は摩訶不思議な場所だ



肩で息をしながら去り行く海賊船の船尾を邪険に見送っていたゾロの肩をルフィが叩く。
「ゾロはやれねーけどさ、話してみるとナマエも良い奴だぞ!仲良くしろよゾロー」
「…そう言う問題じゃねぇだろうが…」


ああ本当に 人助けなんて無闇にするものじゃなかった