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▼ 彼の考える愛情論


ナンセンスだ。彼は音もなく呟いた。彼は内線で呼びつけた恋人が船長室に来るのを今か今かと待ち構えていた。それと同時に、嫌な気分になってもいた。人間の感情とは全くもって面倒な仕様をしている。頭が理解していても、精神の部分でそれは露骨に嫌悪を表していた。対象を信じているからこそ、湧き出る嫌気に苛まれてしまう。彼は愛情と言うものを人間の持つ感情群の中で一番無意味であると考えている。なぜ無意味なのか。それはそれが無価値であるからだ。愛情に溺れ愛情に押し潰される人間はくだらない。それならば何故彼にはとても大切な恋人がいるのか。それは彼が愛情に妥協をしたのではない。恋人に心を許したからだ。彼にとって人を愛すると言うことはその者に心を許すことと同意義であり、この世の誰よりも……例え別世界基準であろうと……恋人の心を信じ、恋人の存在こそを愛であると認識している。彼にとって愛情とはつまり、恋人そのものであった。







「ロー? 呼び出しの用件はなんだ?」

「来たなナマエ まあ気を楽にして此処に座れ。 昼間に街でお前と一緒にいた女は誰だったんだ?10文字以内で答えろ」

「露店商の女主人だぞ」

「だろうな」

「………? え、それだけか?」

「それだけだが?」

「いや、浮気現場かと勘繰られて尋問されるのだと思っていたんだ」


そんなことするか馬鹿。ローは遠慮のない言葉を思慮深くないナマエに向けてぶつけた。尋問?そんな事をする意味がないのは分かりきっていることだ。女であるならば喧しく問い詰めるのだろう。あの時一緒にいた女は誰だ、何の話をしていた、と。だがローがそれをする必要は全くない。何故ならナマエは浮気をするような人間ではないからだ。


「その日に会ったばかりの女とナマエが逢引なんてする筈がないだろ。ナマエは手の早い奴じゃないし。もし早ければ、あの頃にウダウダおれを待たせることなんかせずに抱いたんだろうからな」

「…それを引き合いに出されると参るのだが…。だが清廉潔白な事は確かだとも。俺にはローがいるだけで手一杯だからな」

「……そこは俺だけで"充分"と言うべきとこだろ」



嬉しい。思いがけず気分が高揚する言葉を貰った。当然だと構えているとは言え、やはり当事者から発言されると心地好く思う。
ナマエはにこやかに微笑んで「そうだ、今日はローに土産があるんだ。その露店商の店で見つけて、綺麗だったからつい貰った小遣いで買ってしまった。見てくれ、ランプだ!このカバーにデザインされたマリンブルーの魚の絵が繊細だろう?ローは何度言っても夜更けの読書を辞めないから、せめて綺麗な明かりの下で読んでもらいたくてな。受け取ってくれ」買ったランプをローに手渡す。


「あ…りが、とう」

「どういたしまして」


受け取ったランプを持ったまま、ローは気恥ずかしい思いを殺していた。素直にお礼を言える存在は、大事にしないと。そんな人は、そうそう見つからないのだから。「そう言えば、その露店商の女性にからかわれたよ」「…なんて?」ナマエは照れた顔で頬を掻く

「そんなに優しい顔で贈り物選ぶ男性って珍しいわね、って」











愛情とは。誰かに押し付ける物ではない。況してや強要するものでも、無理して作る物でもない。疲れる、くだらない、必要ない。彼の中にある愛情の見解とはそんなもので、しかしそんな諸々を押しやってしまう程に、彼は目の前の恋人が好きだった。


何故、嫌いな"愛情"と言う感情に自分が縛られるようになってしまったのかと考えた。だが、答えは簡単に割り出すことが出来た。


ローが胸に抱いているこの"愛情"は、一からナマエが築き、余すことなくそれをローへと贈ったものだからである。




構築された愛情を 彼は今も大事にしている。
そしてその愛情は次第に増幅し、
彼の思うままに彼を幸福にさせるのだ。