30万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 沈んじゃえ


どう見ても人生に何らかのトラウマを背負ってるとしか思えない少女のことを ハートの海賊団全員、得も言えぬ表情で見つめていた――いや、見守っていた。


もうこの少女がいつ、どこで、何でハートの船に乗船していたのかは知らないが、あそこまで頑なに喋らず、持っていたスケッチブック持ち抱え、虚ろな目をした少女のことを 放っておくわけにはいかない。
我等がキャプテン、トラファルガー・ローは「お前らに任せる。降ろせるなら船から降ろしとけよ」と告げ欠伸を噛み殺しながら船長室へと行ってしまった。つまりこの少女の処遇は、クルーに一任されたと言うことだ。


甲板の隅で膝を抱えて座っているもの言わぬ少女
「お前が行って来いって!」「は!?テメェが声かけに行けよ!」「お前が行かねぇならおれが…」「ちょっと待てぇ!」不毛な押し付け合いをする奴らを尻目に「んじゃあおれがちょっくら行ってくらァ!」と拳を握ったシャチをどうぞどうぞと追いやった時だけは団結していた。
何なんだよお前ら!と送り出したクルーに吠え、シャチは改めて少女を見据える。ゴクリ、と喉がなるのは良からぬことをしようとしている時の興奮ではなく、本当にあの存在に近付いても平気なんかな、と言う不安からの生唾だった。


たぶん、普通の女の子、だ
魂吸い取る系の悪魔とかじゃない…はず



「あ、あのさー……?」

「……」


よかった、顔向けてくれた。聞き流されたらどうしようって思ってたのは杞憂だった



「あー……えー……」

(何訊けばいいんだ!?)
(バカ!そこは臨機応変に行けよ!)


「…お、お名前は?」


ちっとも臨機に応変してはいない質問だったが、シャチの口から出てきた言葉を聞いた少女はゆっくりとスケッチブックを構えて一枚目を見せてきた。既に書かれていたらしい


『ナマエ』


そこには何とも女の子らしい綺麗に整った読みやすい文字で ナマエ と書かれていた。「…ナマエちゃん?」とシャチが確認するように呟けば、少女――ナマエはコクリと頷く。よかった、会話をしてくれる気概はあるみたいだ。


次!何訊けばいいんだよ! シャチは背後を振り返る。「出身とか訊けば?」よしそれで行こう



「えっと、じゃあナマエちゃんは何処生まれ?」


ナマエは直ぐにペンを取った。名前が書かれていたページの空白に『北』とだけ書かれる。北の海出身…と言うことだろうか。まさかの同郷
「ほー」気のない返答をしてしまったシャチの頭を すぐ隣に立ったペンギンが叩く。
見れば、後ろで見ていた連中が何名か近くに寄って来ていた。
人見知りのするベポでさえ、好奇心に負けたのか傍に来ている。

そのベポを見たナマエが、ハッと顔を上げた


「………」

「…あれ、もしかしてベポに興味ある?」

「お、おれ??」


ナマエからの視線に気付いたベポがえっ、と困惑する。
「触ってみるか〜?」面白そうに聞いたシャチが冗談でそう問いかければ、ナマエはコクコクと頷いた。


「触られるぐらい良いよな、ベポ」

「ええっ!? ……う、うん…じゃあ……優しくお願いします!」



でかい図体についた大きな熊の手を ズイっと差し出したベポの顔は真っ赤だ。人見知りなりに勇気を振り絞ってみたらしい。
どうかベポのこの誠意に答えてやってほしい…と目を向けたとき、既にナマエは行動を起こしていた。



「きゃああああああああ!?」


「なんだそれベポおおおおおおおおおお!」
「羨ましいなてめええええええええ!!」



差し出された手を素通りしたナマエはそのままベポの体にへばりついた。

正しく"へばりついた"と言う表現がピッタリ当て嵌まってしまうぐらいの力強い抱擁だ。むんずと掴まれている手からは彼女の力が込められているのが分かり、思わず男たちは嫉妬の叫び声を上げた。


「ベポてめええええええ!」

「えええ!?お、おれ悪くないよね!?」

「え、ナマエちゃん、こーゆーのが好きだった?」


ベポのモフモフとした腹に顔を埋めていたナマエはペンギンからの問いかけにパッと顔を上げ、



「………だいすき」






















「ふぁ…あー…寝た……、…ん? なにやってんだお前ら」


死屍累々 …いや、死んではなかった。甲板の上でのびているクルー達の姿
その中央で件の少女を腹に貼り付けていたベポだけが「あっキャ、キャプテェン!」と声をかけた。


「おうベポ 何があったんだ?」

「ナマエさんが喋った途端、みんなこうなっちゃったんだよぅ!」

「ナマエ?」


ス…と少女の手が上げられる。なるほど、名前は聞き出したんだな。
しかし喋った途端こいつらが倒れるとは何事だ?
ローは興味本位で少女に顔を近づける



「どんな声してたんだ?お前」




「だ、だめですキャプテン……」危機を伝えようとシャチが、懸命にローに手を伸ばす。



が、時すでに遅しであった