30万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 腕を無くした男の話


・クロコダイル二十歳設定


ナマエは激怒した。必ず彼の邪知暴虐の王……ではなく、大切なクロコダイルの左腕を削ぎ落とした当事者に落とし前付けなければならぬと決意した。
しかし…


「……ど、どこの国の最終兵器・バーサーカーと決闘してきたんだいクロコダイル君」


邂逅を果たし早十数年
クロコダイルが20歳を迎えても未だにやめないナマエの「君」付け呼びを指摘するよりも、ナマエの顔は深刻な色に染まっていた。
口調は相変わらずだが、黄金色したナマエの目はただじっとクロコダイルの もう無い左手に注がれている。


「くれてやった」


その代わりタダじゃ起きなかったがな。
そう言ってクロコダイルが懐から取り出したモノにナマエは目を見開く。



「あ、悪魔の実じゃないか…! え、な、も、もしかしてクロコダイル君、ここ数日姿を消してたのは俺に愛想が尽きたからじゃなくてコレを獲りに!?」

「…テメェ、おれがわざわざ残してやっておいた書置き見てねぇのか」

「『行って来る。』だけの文は書置きって、い、言わないんじゃないかな…!!」

「うるせぇ。静かにしろ」



ナマエは黙るしかない。静かにしろと言われたからだけではない。本当に、この子には頭を何度悩まさせられても足りない。

顔の真ん中、鼻を通って頬から頬へ横一直線に入った痛々しい切り傷の縫い痕もまだ真新しいと言うのに。



幼年期を終えた頃から、クロコダイルは性急になり出した。

以前、「おれの部下になれ」「なるんだ」「なれ」と決定事項として下されていたはいたことにナマエが未だ曖昧なまま返事をしていた頃が既に懐かしい。
住んでいた山を降り、海へ出ると決めたクロコダイルに付いて来たのはナマエの甘さだ。長年共に暮らしてきて家族のような情を抱いた事と、何より"独り"にして欲しくしたくなかったこともあって請われるままに従ってきた。

裏のルートからいつでも悪魔の実の情報を手に入れ、目的となる実を追い、先週この島にやって来たところだ。
そしてクロコダイルが突然姿を消して…前述の通りだ。ナマエは絶望に打ちひしがれながら取っていた宿の部屋でシクシクと鰐の顔の巨大な目玉から涙を流していた時



「……それで、これがクロコダイル君の欲しかった悪魔の実なのか?」

「そうだ。 "スナスナの実"…… …っ!」

「あ…! だ、大丈夫クロコダイル君!?」



包帯の巻かれていた左手を抱え込んだクロコダイルに駆け寄る。
ナマエの心配したゴツゴツの手は、クロコダイルのそれに触れるや否や手酷く振り払われる。「触んな!」 手酷い拒絶だ。そんなに触られたくなかったのだろうか、堪らず「ご、ごめんよ!」と謝ってしまった。



「い、痛むのなら医者に…と言うかこれ、ちゃんと診てもらったのかい? よもや止血して包帯巻いただけなんてことは…」

「…平気だっつってんだろ。片腕がねぇ海賊なんざゴマンといんだろうが」


そうかも知れないが、それがクロコダイルも、となると話が別だ。
隻腕のデメリットを如何なる手段を以って打ち消している海賊は確かにいるだろう。

だがもう少しこっちの身にもなってもらいたい。
久方ぶりに会えた者の腕が一本無くなっていたとしたら、人間でなくとも、鰐であろうと心配するのだから



「…………」

「…」



暫くの沈黙 やはりここは、ガツン、と……――




「………こ、れからは、どんな危険だと分かっていても、お、俺も連れて行ってもらえる、かな。い、一応、俺だって君の心配をする鰐人間だからさ…」

「……デカい上にドンくせぇナマエを連れて行ける場所なら、な」





それではあまりにも、部下甲斐がないではないか