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▼ 向日葵娘とレイン


「この際だからハッキリさせましょう!どっちがフランキーさんに相応しいかを!負けないからね、サニー!!!」


声高々にそう叫び、シャボンディの沖で停泊しているサニー号を指差した少女のこの奇行は、何も今日唐突に始まったわけではなかった。

少女……ナマエは、フランキーを師として仰ぎ自ら弟子入りを申し出てきた風変わりな女だ。海軍と海賊、そしてパシフィスタ 様々な者達が混戦を繰り広げたこのシャボンディ諸島にて、戦いの前に「騒ぎが収まるまでここでじっとしてろよ」と言ったフランキーからの言いつけを忠実に守り、今日びまでシャクヤクの店で匿われていたのである。
麦わらの仲間たちと逸れてしまった、負の感情が負の考えを呼び、置いて行かれたのではと落胆した彼女をシャクヤクは常に励ましてきた。その甲斐あってかナマエはすっかり元に戻ったらしい。きっと皆さんは、フランキーさんは、この船を中心にしてまた戻って来てくれる。そう考えれば考えるほど、それが現実として起こり得るとしか思えない未来だと思えるのだ。だからナマエは待っている。フランキーや他の皆とまた会えた時に劣っていないよう船大工の技術を磨きながら、こうしてサニー号の様子を窺いに来たりしてと、大忙しな毎日なのだ。


重量感のある工具箱を片手で軽々と担いで見せているナマエはサニー号を指差す手を下ろさないまま、船の傍らで鎮座している男の方へと顔を向けた。この行動もいつものことである



「…バーソロミュー・くまさん!今日もちゃんと、私とサニーの戦いの結果を見ていてくださいね!」


名を呼ばれた"バーソロミュー・くま"は口を開かない。度重なる外敵からの襲撃を一人でに受け持っているこの寡黙な男はいつぞやに姿を現した時から今まで一言も喋らないでいた。
サニー号の近くに、この男がいることに気付いた時、一緒について来てもらったシャクヤクが「まあ大丈夫でしょ、やりたいようにさせといてあげましょう」と言ったから、ナマエも気にせずにいられるのだが。しかし本来ならこの男たちのせいでフランキーさんたちが…とも考えてしまうが、一介の船大工見習いである自分にはどうすることも出来ない存在だと諦めている、怯えているのも事実である。









サニーの様子はいつでも良好だ。伊達に毎日のようにフランキーを巡る戦いと称しながら整備をしに来てはいない。可能ならば今すぐにでも、船長の号令一つさえあれば出航が出来る。
因みにサニーとの戦いの戦績は700戦中0勝0敗700引き分けだ。



「…何だか今日は一段と港の方が騒がしいなぁ…」


店を出る前に新聞を読んでいたレイリーさんの機嫌がいつになく上機嫌だったのもおかしかったけど、今日の娯楽街は直近の中でもかなりの賑わいぶりだ。サニー号を停泊させているこの場所にまで喧騒が聞こえてくるのだから余計にだろう。傍らの黙する鋼鉄の男に話しかける


「何か知りませんか?バーソロミュー・くまさん」


機械の男は、やはり一言も話さないままだ。
大きな体と機械のパーツを持っているところがフランキーを連想させて話し相手になって欲しかったのに、結局一言も言葉を交わせなかった。


マストの点検も操舵輪の整備も終わった。ふう、と工具箱を地面に下ろし、括っていた髪の毛を解く。油塗れになってしまったから早くシャクヤクの家に帰ってシャワーを浴びたい気分だけど、何故か今日はもう少しサニーの近くにいたい気分だった。街から聞こえてくる騒音をバックにしながら、ナマエはバーソロミュー・くまから5mほど離れた場所に腰を下ろす。

この巨漢が返事をしてくれるとは思っていないが、彼に聞かせるように独り言を呟く。



「…はあぁぁ……早くフランキーさん帰って来てくれないかなぁ……あ、あとルフィさんとかナミさんも…うん…でもやっぱりフランキーさん……チョッパーとか元気かな、どこかの島で大きな鳥とかに食べられちゃったりしてないといいけど……フランキーさん、大故障とかしてないよね…心配だなぁ…女の人ととかに言い寄られてたり…はしてないことを祈るとして、海軍とかに捕まっちゃってたりしな」



いよね

と言おうとしたナマエの言葉を遮るような金属の音が隣から聞こえてきて、吃驚しながら「えっ」と顔を上げた。バーソロミュー・くまが、立ち上がっている。この巨漢が身動きを始めた時はいつもサニーを襲おうとする輩が現れた時のみ。まさか!?とナマエは工具箱を手に取って慌ててくまの背後に身体を滑り込ませた。基本的にこの男の後ろは安全地帯なのだ


(ま、まさかまたどこかの海賊が…!)


しかしその"敵"は一向に姿を現さない。あれ…?とナマエが首を捻るも、バーソロミュー・くまは、じっと木々の奥を見据えている。ナマエには聞こえない足音が、この男には聞こえているのだろうか。
バーソロミュー・くまの背中から、ひょこっと首を出して自分もくまが見ている方角を注視する。
そして、暗い木々の奥にぼんやりと、大きな影が見えてきた。だんだんと、その影が近くなる。


「…あ、あれ…? も、もしかしてあの影は…」


見えてくる影は、一人だけのものだ。だがその影は、あまりにも特徴に富んでいる。バーソロミュー・くまと匹敵しそうなほどの巨大な影
え、とナマエは目を見開く。思わず持っていた工具箱をもう一度取り落とし、木々の間を抜け広地に出てきたその姿を



「――おぉナマエー!やーっぱりココにいたんだなお前〜!」



「フ、フ、フラ、フ、」


フランキーさぁああん!!!



やはり見間違うことはなかった。現れたのは、フランキーだった。大泣きしながらその体に駆け寄って行ったナマエをフランキーはガハハ!と笑いながら両手で抱き上げる


「う、うわあああああん!!ほんとうにフランキーさんだああああああ!!うわああああああああん!!」

「よーぅ久しぶりだったなぁナマエ!ちゃんとイイ子で待ってたみたいじゃねぇか。偉いな!」

「はいいいぃぃぃ…!ま、待ってましたずっとずっとぅう〜!」

「サニーのことも面倒看ててくれたんだろ?」

「はいぃ…!激闘を繰り広げてましたぁ…!」

「そうかよくやったなナマエ!」



泣きじゃくるナマエを下に下ろし、ポンポンと頭を撫でる。極端に変わった自分の見た目を指摘する余裕も今のナマエにはないようだ。ふと、ずっと静かにこちらに視線を送っていたバーソロミュー・くまに気付く。「テメェは…!」とフランキーがナマエを庇うように前に出て警戒したが、バーソロミュー・くまは構えを取らない。


「…俺の役目は終わった」

「……はァ?」


ただそれだけを言い残し、ギギギと音を立て歩き出したバーソロミュー・くまは、そのまま何処かへと行ってしまった。「??」意味が分からない。あいつは今までサニー号の近くにいたのか?だがフランキーが幾ら頭を悩ませても答えは出ないだろう。ナマエが何か知っているかもしれない。落ち着くまで待って、後で訊くことにしよう。一先ず、



「イ〜イ女になったじゃねェかナマエ!チンチクリンだったのによぅ!」

「う、そ、そうですかぁあ…?うれし、いで、うわああああああああああああん!!」

「おーいおい、そろそろ泣き止め、な?」

「は、はいぃい…!」



頷いたものの未だ泣き止む気配のないナマエを肩に乗せたまま、フランキーは久方ぶりのサニー号を調べる。

二年もの間、ずっとナマエが管理していた。 その事が一目見ただけで悟れた。
フランキーが新たに手を加えて如何こうする必要もないぐらいに整備されている。
二年前、押しかけ弟子嫁として出会ったこの少女は、もしかしなくてもとんでもない成長を遂げたらしい。

フランキーの中にあった、"偉いことをした子分は褒めてやりたい"衝動がムクムクと生まれてくる。


とにかく早く、泣き止めナマエ
褒めたくて褒めたくて口がウズウズしてきたから、早くおれの話を聞く態勢になれ


このままナマエが自ら泣き止むまで待つか、フランキーが手を貸すかするか、どちらにしようかとフランキーもまた悩み始めた