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▼ ※友好的な関係です


自分から申し出たわけじゃなかったけど、ナマエさんが取っ組み合いの相手におれを選んでくれたのは、純粋に嬉しいと思った。

悔しい顔して歯ぎしりしてるシャチに勝ったと思ったし、クルーの訓練時間に同伴してなかったキャプテンには咎められることもない。他の奴らはそれぞれ別の相手を見つけて訓練を始めて、おれはナマエさんの正面に立って苦笑を零す。「おれなんかが相手で、良かったんですか?」ずるい言い方なのは自覚してた。勿論、おれが知るナマエさんがこの言葉に対して否定的なことを言うわけがない。「おれの方こそ、指名してすまないよ、ペンギン君」ほらな。
いいんですよって返したら、ナマエさんは笑った。口元の皺と、目尻の皺が具合良く笑い方にマッチしてて見ていて暖かくなる笑顔だ。ナマエさんはこう言うところがあるから好きなんだよな。



幾らキャプテンの思い人だったからって、おれら海賊が誰に対しても友好的に接するかと言われれば答えはノーだ。おれらも人間、人に対しての好き嫌いなんかいっぱいある。最初、おれがキャプテンの話すナマエさん自慢を聞いた時は「そんな聖人いるんすか」って苦笑気味に聞いてたっけ。今だから言えるけど、ほんの少しだけ、ナマエさんてのはキャプテンの頭の中にいる人間なんじゃないかって疑ってたこともある。これは内緒だ。


だけどそれでも、ナマエさんが船の皆からも迎え入れられたのは、単にナマエさんがキャプテンのお話以上にいい人だったから。
それ以上の理由はないけどこれ以上に理由は要らないだろ?大人の余裕っぷりとか、優しくてしっかりされてるのにどっか抜けてて「可愛い」(これはキャプテン談だ)かったり、年齢を理由にしたりしないで船での生活とかを年下のおれ達から教わろうとするあの姿勢は本当に尊敬に値する。おれの場合は絶対に無理だ。シャチなんかにドヤ顔で教えられたら顔面パンチも辞さない訳で、当然ながらナマエさんはそんな暴挙に出たりしない。凄い人なんだナマエさんは。それに何よりおれがこの人のことを気に入っているのは、



「ナマエさん 新しい写真集手に入れましたよ、おれ!」
「! 本当かいペンギン君!」
「訓練終わったらおれのいる大部屋に来ませんか?一緒に見ましょうよ」
「あぁ、拒む理由がないな」




いかがわしい写真集かと思った?
残念、海洋生物の写真集でしたー。

おれとナマエさんが愛してやまない動物の方のペンギン達の生態に密着したコラム付き写真集を前の島で見つけた時はガッツポーズした。
これはナマエさんと読まねば!と今日まで封を切らなかったから、そろそろ良いだろってことでお誘いしてみれば気持ち良くなるぐらいの承諾の返事。思わず組手の手を止めて二人で話し込む。


「確か先月は皇帝ペンギンの特集だったんだよなぁ…」
「そうです。先々月のエレファントペンギンの記事はちゃんとスクラップにして残してますしね」
「俺のいた世界にいるペンギンがコッチにいるなと思ってたら、やはり不思議な種類のペンギンもいたよな。あれは確か…何と言ったかな?」
「アカクロペンギンのことですか?外見が茶色チックな赤色で主に火山の火口に棲息してる」
「あぁそうだそれだ!」


いやあ全く不思議だよ…何故火山の近くを好んで棲息するペンギンがいるのかな…。明るい声を上げたナマエさんは次に考え込む姿勢を取る。手を顎に当て、伸びた髭をなぞりながら思案する姿は、キャプテンでもシャチでもないがほんの少し格好良く見える。ん?あ、いや勿論ナマエさんは平素からカッコ良い方で、改めて指摘するほどのことじゃないから"少し"って言っただけで別に普段のナマエさんを格好よくないと思ってるってことじゃないんだからな?っておれは一体誰に対してこんな必死に弁解してんだ…


「休憩時間だー」


「…あ」
「おや、もうそんなに時間が経ってたのか?」


いつの間にやら前半が終わったらしい。
驚いた声を上げたナマエさんに、近くを通りかかったジェントルとモーブがからかい混じりに声をかける


「ナマエ殿、何やらペンギンと談笑されておりましたな」
「サボったら駄目でしょーがナマエさん、ペンギーン」


揶揄の言葉にも一切崩さない笑顔で「ついペンギン君との話に夢中になってしまっていたよ」って言うナマエさんはやっぱり凄いな。ナマエさんを見てたせいで返事が遅れたおれを不審に思ったジェントルが帽子の下からおれの目を覗いて来る。「ペンギン?どうしたんだね?ボーッとして」
「…ペンギン君?」あ、はい。って言おうとしたんだけど、それよりも先にナマエさんの手がおれの顔に伸びて来る方が早かったんだ。ペチペチって、手の甲で頬を二回叩かれる。当たり前だけど、痛くない。どうしたんだ?って窺うような手つきだ。

「…ぅ、あ」
な、なんなんだこれ。いや、別に何てことはない事なんだけど、こんな頬を手の甲で優しく叩かれるこの動作ってやられると割と照れが生じるものだったっぽくていやその


「…は、はい。 ちゃんと生きてます、おれ…」
「ははは。なんだい、それは」
「ペンギン、なに間抜けなこと言ってんだよ!」
「後半からはしっかり気を引き締めるんだぞ?」


そう言ってジェントルとモーブが去って行く。後に残されたおれとナマエさんとの間には、不思議な空気が漂ってるような気がする。何でかは知りたくもないが戸口の方から歯軋りしてるシャチがおれを睨んで来てるのが鬱陶しいと思った。あいつはいつかキャプテンに吊るされればいいんだ



「…ペンギン君?大丈夫かい?」
「…!あ、はい」
「良かった。では俺たちもコックさんに飲み物でも貰いに行くとするか?」
「そうですね」


す、とナマエさんがどうしてか右手をおれに差し出して来た。「えっ!?」なんですかこの手は。まさか、手を繋いで食堂まで!?って言う意味で驚いた「えっ!?」だったんだけど(何故か戸口のシャチからも同様の声が上がった)ナマエさんの意図は全く別のところにあったらしくて
「後半からは、真面目にお手合わせ願おう」って言う握手的な意味のあれでした。今なら羞恥で死ねそうだけど、これ程帽子があって良かったことはない。おれは恥ずかしくなって照れると目の周りに熱を持って赤くなる体質だったから今は間違いなく帽子の下に隠されてるからおれのみっともない照れ顔がナマエさんに伝わることはない。早とちり、まじではずい


「こ、こちらこそ…」
「ああ」


いや、ああ。じゃないですよナマエさんも!