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▼ まだそこに愛があると錯覚していた


ナマエは昔からローの部下として傍に付き従っていた。

恐ろしく無口で他人に対して無愛想に振舞う様は多くの反感を買っていたが、ローの前だけは優しい気遣いを見せるような好青年なのだ。
ドンキホーテ・ドフラミンゴの傘下にローがいた頃から、ローの周りはいつも敵だらけだった。そもそも誰かの下につく、と言う状況が辛抱ならなかったローは事有るごとにボスであるドフラミンゴに盾つき、その度に彼の臣下たちから手酷い仕打ちを受けていた。当の本人はフッフッフと笑って意に介さなかったのがまた腹が立つ


しかしいつもナマエが間に入って来て、いつの間にかローを救っているのだ。


ナマエが一歩間に立てば、ローを責めていた連中は苦虫を噛み潰すような顔でそこから去って行く。
「………」
「…ケッ!」
まだ怒りは鎮まってないだろうに、それでもローから興味を失くしていく。誰も彼もがそうした。




「ナマエはいつも、どんな技使ってるんだ」

「…いいえ、何も。俺はただ、黙って間に入っているだけです」


ローの顔や体についた傷の手当てをしてやりながら、ナマエは淡々と答えた。それも妙な話だ。だからローはいつもナマエのことを不審に思ってしまう。
ローがドフラミンゴの下についた時から、ナマエはローの部下についた。いつも知らず内に一緒に行動していて、ナマエが誰か別の人間と一緒にいるところをあまり見たことがない。ローの部下になる前のナマエの素性も、どんな経緯で入ったのかも知らない。ナマエはただ静かに、ローのすぐ傍にいた。


「………ロー 一つだけ質問をしていいか」

「! なんだ?」


珍しい。ナマエの方から話題を振って来たのはもしかして初めてじゃないだろうか。ローの喉からは上ずった声が出た。思いのほか嬉しかったのだ。



「最近、やけに若様への当たりが強くなっている気がする」


若様――ドフラミンゴのことだ――と呼ぶナマエに多少の苛立ちを感じながらも、「…それで?」とローはナマエの言葉の続きを促した。


「…何か、企んではないか?」

「…………」



ジ、っとナマエはローの目を見つめて来る。ローは直ぐには口を開けなかった。




迷っているのかも知れない。胸中にある計画をナマエに話しても、大丈夫なのかどうか。


ローはドフラミンゴの組織から脱退することを決めていた。
このままあの男の下に付き従っているだけでは嫌だと、何年もの歳月をかけて溜め込んできた鬱憤が遂に爆発しそうだったのだ。

ここを出て、自分の海賊団を作る

既に始動しているこの計画は、まだドフラミンゴにはバレていない。バレていれば、ローが秘密裏に用意した潜水艦も破壊されてしまっているだろう。既に何人かの船員は用意していた。信頼のおける、腕の立つ者を用意した。タイミングさえ合えば、すぐにでも此処を出られる準備は整っている。

そのローの足を踏み止まらせていた理由は、ナマエを連れて行くかどうかだった。



「……ナマエ」

「何だ」


「…おれに付いて来る気はあるか」



ローの言葉を聞いたナマエの顔は、いつもと同じ無表情だ。衝撃を受けたのか、受けてないのか、が分からない。
しかし読めない表情に少しだけ、焦りの色が見えた気がした。


「…若様を裏切るのか?」

「ああ。おれは此処を出て、自分の海賊団を作り上げる」

「……俺が付いて行っても、大丈夫なのか」


不安そうなその問いかけに、ローは心臓をギュっと掴まれるような感覚に陥った。そう問いかけて来たナマエが何故かとても小さく見えた。雨の中、親に置いて行かれる捨て子のような


「…付いて来い、ナマエ」

「ロー……」

「お前は、おれの部下だろう?」



ローからの一世一代のような誘いを聞いたナマエは、
程なくしてゆっくりと首を縦に振った。

こんな俺で良ければ連れて行って欲しい、と。



「誰を裏切れば一番辛いのかは、ちゃんと分かっている」



そのナマエからの言葉ほど、ローを喜ばせるものはなかったのだ。




















全く可愛いものだ。積み上げられた"信頼"と言う大きな壁のせいで、視界が狭くなってしまっている事にも気が付いていない。如何に平坦ではない人生を送って来ていようとお前はまだ若い。未熟なんだよ、ロー 本当に可愛くてかわいくて、愚かで、愛おしい人だ そして、大嫌いだよ ロー




真っ暗な海底を突き進む潜水艦のある船室では、記録指針を持って航海士であるベポと針路の相談をしている我等がキャプテン、トラファルガー・ローの姿がある。真剣に話し合っている姿を壁際に凭れ眺めているナマエの視線にも気が付いていない。今、ナマエがどれだけ愉悦の表情を浮かべているかにも気付いていない。



嗚呼言ってしまいたい、本当のことを今すぐにでも伝えてしまいたい。真実を伝えられてローの顔が憎悪、悲哀、絶望に歪む様を見てみたい。しかし我慢しなくてはいけない持ちこたえなくてはならない易々と己に課せられた任務を放棄してはならない。ドンキホーテ・ドフラミンゴの忠実なる部下として、このままトラファルガー・ローの行動を監視していなくてはいけないのだ。


きっとローは知らない。

ナマエの本性、本心が、"無口"で"無愛想"で"トラファルガー・ローの忠実な部下"ではないことを。


ナマエはずっとドンキホーテ・ドフラミンゴの腹心だ。何年も何年も、ローが入るよりずっと前から


『若い精鋭が入った、しかし性格に難が合って何をしでかすか分からない、お前が付いて見張っていろ』


この命令をドフラミンゴ直々に受けてから早幾年

最初の頃にされていた警戒も、今ではすっかり信頼に変わっている。


――あのなロー、ハートの海賊団の動向は、ドフラミンゴ様には筒抜けなんだよ


「だって俺が流してるから……」


「? ナマエ、何か言ったか」
「ナマエさん??」


「……いいや、すまない 気にしないでくれ」

「…そうか? まあ、疲れたんなら部屋に戻って休めよ」

「ああ、ありがとう ロー」

「べ、別に…!」




だめだ駄目だああああだめだ駄目だだめだ駄目だ、笑っちゃ駄目だぞ、俺