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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 身長差170cm以上


俺は妖精が見える。
ちょ、引かないでくれ俺は極めて真面目なことを言っているんだぞ



"物見遊山"…ではなく"武者修行"なんて金持ちとか暇人の娯楽みたいな目的でドレスローザに来てから今日で一週間
どうもこの国では"妖精のいたずら"なる物が実しやかな噂として流れているらしいが、その肝心の妖精の姿を見た人間はいないらしいのだ。変だと思ってたんだ俺も。どうして見えない存在のいたずら、ってことで自分の持ち物が無くなることをそう割り切れるもんなんだってね。本当にいるのか?"妖精"なんて言う嘘を吐かれて集団で騙すタイプの泥棒に襲われたんじゃないかとか色々疑ったんだ。…そうです俺も大事な大事な武器をその妖精とやらに奪われた口です。だが俺は絶対に許さん。妖精だか泥棒だかどっちでもいいが俺の武器を返せ!俺の!



と、意気込んで取っていた宿の部屋を飛び出してドレスローザ中を走り回ったのが今日の朝の話だ。今は15時半 場所はドレスローザの繁華街から一歩抜けた裏通り

太陽もギンギラに輝くこのクソ暑い炎天下の中、俺の脳みそが熱さでふやけて幻覚が見えている、って言うアレでなければ、俺の手が握っているこれは間違いなく



「妖精だあああああああああああああ!?」

「あーん!!もうバカ!バカバカ!私のバカァ!どうして人間に見つかっちゃうのぉ!?バカ!ドジ!マヌケ!オタンコナス!チビクソジャリ!」
「そんなに言わなくてもいいんじゃないか…?」
「わああああん!!放して!は、な、し、てぇえええ!」
「え、イタッ!? ちょ、イダアアア!!痛い!痛いです!!その小さいお手てのアダアア!どこにそんな力がアアアアア!!」



ガントレットの上から殴られてるのにめちゃくちゃ痛いしガントレットにヒビが入ったんだけどどう言うことだ!?妖精ってのは皆こんな怪力なのかよ!御伽噺の妖精と全然違う!



「ちょ、落ち着け、暴れないでくれ!な、お願いだから!取って食いやしないからさ!」
「……」
「あ 意外に素直に大人しくしてくれるのか」



妖精の…女の子だ。大きな目に大粒の涙を浮かべながらもどうにか大人しくしてくれた。まだ「うぅ…私のドジ…」と己の愚行?を嘆いているようだが、こちらとしても別に危害を加えるつもりはないんだ。このまま何もせずに、この子の手に持たれている縄の先に括りつけられている俺の武器を返してくれさえすれば

そんな感じの旨の話を伝えれば、妖精の子は疑惑に満ちた目で俺を睨みつけてくる。どうしてだ。こんなに人当たりよく話してるのに何故妖精側がそんな目で見てくるんだよ。



「君を見たことは誰にも言わないし、君が持ってる他の荷物は取らないから、俺の武器だけ返してくれないか?頼む!」
「……ぜんぶは、わたさないぃぃ…」
「そ、それでいい!だからさ、な!?」
「……………」
「……………」
「……ぅう…わたしの、」
「あ、あの、お願いだからこれ以上泣くのは…あと自分を責めるのもやめてくれ…」



若い女の子が自分のことを涙ながらに卑下している場面を見るのは些か心苦しいものがある。
俺はこの子が自分の武器を盗んだ泥棒妖精であることも忘れて慰めたい衝動に駆られた。
拘束していた(拘束になっていたのか?)両手を放してやって、あくまで穏やかに声をかけようと試みる。妖精は依然として涙顔のままだ



「…どうして君はそんな泣いてるんだ? ドジしたら誰かに怒られるのか?」



訊いている途中で、宿の食堂のおばさんの言葉を思い出した。
『妖精と関わってはいけないよ』簡潔だが大切なルールがこの国にはあった筈だ

しかし、それはあくまで住人が守らなければならない掟だと考えれば、旅人な俺が関わろうが関わるまいが関係ないよな?屁理屈です



「…ちがうの」


最初は警戒していた妖精も、おずおずとだが口を開き出した。語ってくれたのは、妖精が住んでいると言うトンタッタ王国でのこと。
そこでは妖精たちが皆兵士のように暮らしているらしく、妖精は偵察隊の一人らしい。だけどその偵察隊の中でも、彼女は落ちこぼれなのだと言う。



「わたし…失敗ばっかりれ…、泣き虫らしぃ…!」
「……なるほど」



我ながら真剣に妖精の話を聞いていた。いつの間にか二人で隣同士に座り込んで、路地裏の壁に凭れて会話している。上から見下ろしても妖精の表情は見えないけど、妖精の足元に大量の涙溜まりがあるのでまた泣いてるようだ。あんなに凄い力を持っている彼女が悔しさで地団太なんかを踏めばこのレンガの道は一瞬で粉々になってしまう。それだけは何とか避けたい。機嫌を損なわせないようにしないと



「……あなた、人間なのに私の話をちゃんと聞いてくれるの…?」
「ん? おお、勿論じゃねぇか。俺から聞いたのに、そりゃ聞くだろ。真面目に」
「…へー 人間にも、あなたみたいな人がいるんれすね」


話に聞いてた人間より、いい人みたい

どんな人間像が妖精の間で流れているのかは知らないが、彼女は考えを改めてくれたようだ。えへへ、と泣き笑いの顔は、そこそこに可愛いと思った。

…おい俺は一体何を考えてるんだ妖精相手に。
て言うかこの子妖精じゃないよな? どう見たって、小人族、だよな?
誰も妖精を見たことがないから、小人族って知らなかっただけか?


俺が疑問符を飛ばしてる間に、妖精…改め小人はまたもションボリとし始める。


「…どうして私、失敗しちゃうんれしょう」


「……まあ、そうだな 俺から1つ言えるのはな」
「え…?」

「君が頑張ってるからだ」

 
… … …。


「え?」
「え、そこでえ?って言われるとは思わなかったんだが…」


ちょっとかっこつけて言ってみただけにその反応は堪えるぞ…


「…いいか? そもそもな、がんばらない奴は失敗したりしないんだ。頑張らないからだよ。頑張れば、それ相応の結果が君に付く。それが失敗だろうと成功だろうと、何の結果も起きないがんばらない奴に比べれば、君の方が何倍もいい経験をしてるんだ」
「……そう、れすか 私、がんばってる?失敗ばかりなのに?」
「おお。失敗したことに対して泣いて反省するところは、俺は凄いと思うぞ」


大人になってくると自分の失敗を素直に受け止められなくなってくるからな。反省出来る年齢のうちにしておいた方が後々の人生…小人生に少なからず良い影響を与えてくれるかもなんだぜ。

最後はめちゃくちゃ格好つけて言ってみた。その甲斐あって小人は「そっかあ!」と明るい声を出してくれた



「ありがとう!そう言ってもらえて、すごく嬉しいれす!」
「そうかそうか。ハハハ」
「あなた、良い人れすね!」
「だろ?俺もそう思ってるんだハハハ」
「はい!ほんとに、かっこいい…!」
「ハハハ……え?」









俺は妖精に好かれている。
引くか?笑うか?おお何とでも言ってくれ。2年前からのことだから突かれたって痛くも痒くもないわ


武者修行目的で訪れたドレスローザでの滞在を続けてから早いものでもう2年が経つ。
何故伸ばしに伸ばしてまだ此処にいるのかと言えば先述の妖精…ではなく小人の件もあるんだが、俺が出ようとした時の海は海賊たちのせいで荒れていたのだ。ルーキー達がこれでもかと大暴れし、とても一人でウロウロ出来ない海ばかり。
しょうがなくこうしてドレスローザで暮らし始めてるんだが、どうしたものかこの状況は


「……なあウィッカ」
「なんれすかナマエさん!」
「…いや、やっぱなんでもねぇ」
「? 変なナマエさんれすね!」


グリーンビットにあるトンタッタ王国とドレスローザの俺の家の間を行き交いしているウィッカってこれ、どう見ても通い妻だよな?
小人の王国で取ってきたと言う魚や肉と言った食糧を持って来てくれるし、
今だって俺の家の家財を引っくり返して遊んでいる。本人は「浮気調査れす!」とか言う覚えたての言葉を使ってるが俺からしてみれば遊んでるように見えるだけだ。
痛くも無い腹を探られてるみたいだが、クローゼットの中の服を散乱されるのは少し遠慮したい。ウィッカは次に本棚を漁り始めた。あまり種類のない俺の本を手当たり次第に読む。



「世界の武器100選とかだぞ。お前には面白くない内容なんじゃないか?」
「そんなことないれす!おもしろい……あれ?こっちのこれは何れすか?」
「それは絵本だな。俺の故郷の海で有名な絵本でな。何となく手放せずに持ってた奴だ」
「……!こ、この真ん中の人物ってもしかして!!」
「ウィッカも知ってんのか?うそつきノーランドだよ。どうして頭に栗乗っけてんだろうな?」



いきなりウィッカが突撃してきた。「おぐふっ!?」強烈なタックルを腹に食らい、持っていたコーヒー入りマグカップを取り落とす。
「何するウィッカアアアア!」怒鳴ったがそれよりも大きなウィッカの声に掻き消された


「ノーランド!ナマエもあの有名なノーランドさんを知ってたんれすねぇ!」
「…へ?」



これは運命れす!ナマエも早く言ってくれればトンタッタ王国で御もてなししたのに!



待て、一体なんの話だ?ノーランドを知っていたら小人の王国でおもてなし?俺の故郷の奴なら全員知ってると思うんだが何の話だ?


当然疑問に思った俺のことなんて知る由もないウィッカは興奮冷めやらぬと言った様子のまま「じゃあ私、偵察に行ってきます!」と言って意気揚々と窓から飛び出して行った。確か、あいつが偵察に行く目的地は王国の本城ではなかったか?危険過ぎる場所なのに、あんな浮かれた様子じゃ絶対に道中やらでミスをやらかすに違いない。2年の経験が訴えて来ている!
「待てウィッカ!お前一人じゃ危ないって!」愛用の武器を持って小さすぎる背中を追った。


ここで俺が無闇に小人の仕事に首を突っ込んだせいで後々になって他の小人やらおっかない海賊やら麦わらの海賊らと出くわしてしまうことになるんだが、今の俺には与り知らぬことだ