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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ キッチンで繰り返される残虐


熱々だったポテトグラタンはすっかり冷めてしまった。
おれのもだ。おれのも。ぼくのもです。そして私のも。おいらのも。
テーブルの前に置かれていて、後はもう「いただきます」をするだけだったのに、手付かずのままどんどん美味しい食べ頃ラインから去って行くポテトグラタンを涙ながらに見つめる作業。

それもこれも、我等がボニー船長が「GO」サインをくれないからだ。
何故ああやってポテトグラタンを一心に見つめてるんだろう。寧ろポテトグラタンに罪はない。グラタンが船長に対して粗相をしたわけでも、暴食の船長がポテトグラタンだけは食べられないとか、そう言う理由は一切ないわけで、
この妙な空気を作り出した要因は、キッチンにいて追加のグラタンを作っている奴なのです



「…追加お待たせしまー…あれ? 皆さん、まだ食べ始めてないんで?」


「っテメェナマエコラなんのつもりだァー!!」

「わー!?ボ、ボボボニー船長なんですかく、くっつかないでくださいぃいってアッヅゥウア!」


 凄いぞナマエ 手に持っていた熱々のグラタンを顔で受け止めながらも船長には降りかからないように身を呈するあの姿勢 なんですか、と言いつつもちゃっかりボニー船長の細い腰に腕を回しているのはクルー一同に見えてしまっているが



「な、なん、おま、えぇ゛!?コラァ!!」
「せ、船長、お願いですから俺にも分かる言葉で話してください!」



 涙ながらにボニー船長からの凄みを受け止めているナマエはボニー船長が大好きだった。海賊のコックのくせして中々に純情初心な男で、ガキが抱くような恋心をずーっと船長に向けている。
 そしてボニー船長はナマエのことを乗船当時から気に入っていてずーっとあんな調子だ

 もうここまで言ったら全部言わなくても分かるな? 両片思い同士のアツアツな現場に当てられているんだ
「熱々のグラタン持ってるだけにな!」
「なんも上手くねーし死ね」
「お前…そこまで言わなくてもいいだろ…」
「うっせぇなコッチは腹減ってイライラしてんだよ死ね」
 船長を差し置いて食事を始めようものなら、船長の鉄拳が飛んで来るのは間違いない。だから辛抱して待つしかないのだ。



「ど、どどどうして!あ、あたしのグラタンにお前!ケチャップでハ、ハ、ハートとか!描いたりしてんだよバッカじゃねぇのか!」
「――嘘!? 持って行く時にちゃんと消した筈なのに!」
「消し忘れてんじゃねぇよバカ!!」
「す、すいません船長!!」



どれ、とクルーの一人が身を乗り出しながらボニー船長の前にあったグラタンを覗き込む。
確かに 真っ赤なケチャップで描かれた歪なハートが器の隅に1つ存在していた。
なるほど、これを見てボニー船長はさっき身体をプルプル震わせていたわけだな。そう納得してはみたが、えぇー…と言う気持ちは覆せそうにない。そりゃあ好きな相手から意味深なハートマークを描かれた料理を出されたら乙女の心中も穏やかではないかも知れないが、だとしたって限度があるし、ナマエが絡むとボニー船長は気性の荒さのナリを潜めさせてしまうから驚きだと言うかあんなに乙女全開な船長は見ていてちょっと耐えられないものがある。普段が普段なだけに。


「どう言うつもりでこんな事したんだ! "女と見れば誰にでもやってる"とか言ったら二つ先の島まで拳で吹き飛ばすからな!」
「だ、誰にでもやってたりなんかしませんよ船長! だ、だって俺はボニー海賊団のコックで、他の女性となんか会ってませんし、ええとそれに」



口ごもって言いよどむナマエに遂にボニー船長が身体を押し付けた。所謂"当ててんのよ"状態だ クルーの一人が「うらやま…!」と叫びそうになったのを紙ナプキンあてて押し留める。食事の席ではなるべく素手で何かをしたりしない、と言うのはこの船における留意事項だ。黴菌は手から侵入してくるから



「せ、せん、ちょぉ…!?」
「グダグダ言わねぇでどうして描いたのかどうかだけハッキリ答えろ」
「すいません自分の気持ちを抑えきれず形にしてしまいました本当にすいません大好きです船長」



言った。
食堂にいる全員が確かに今のナマエの言葉を聞き取った。遂に言っちゃったぞあいつ。小声でザワザワしているクルー達の視線の先で、ボニー船長の肩がプルプルと震えている。背中しか見えないが、あ、船長嬉しいんだな。って言うのが伝わってきた。ヘタレで口下手な我が船のコックであるナマエが声高々に「大好きです」なんて言うとは想像もしてなかったに違いない。


これはさぞかし船長のご機嫌も…


「わっ!?」


…と思いきやナマエがいなくなった。



「……なぜちいさくさせたんですかせんちょう」
やっぱりおれのきもちなんてめいわくでしたか、すいません

いなくなったのはでなくボニー船長の能力で小さくさせられてしまったナマエが視界から消えただけだった。 めそめそと泣きそうになったナマエの小さな腹を蹴り上げて(船長ひどい)浮かび上がった身体を自分の小脇に抱えたボニー船長は先ほどまでの乙女オーラを消失させ



「夕食ん時までには顔出す!」



手を立て男らしくそう宣言した後、「え、え?ボニーせん、え?」とあたふたしているままのナマエと一緒に船長室へと消えて行った。



「……グラタン温め直すか」「…だな」


じゃないと夕飯まで空腹のままでいるのは辛い