30万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ 愛ならある。ただ、種類が異なるだけだ


モモンガは部屋の前でどうするか考えていた。このまま素知らぬ顔でノックをしても良いのだが、何せこの部屋にいる主人は一筋縄ではいかない人物なのである。たとえ幾らモモンガがポーカーフェイスで誤魔化そうとも、既にここへ呼びつけられている時点で相手方は気付いているに違いない。でなければあんなに低い声で『すぐに私の部屋に来い。早くだ。Just now.』と電伝虫が一方的に切れることはなかった筈だ。
意を決する。こんなに緊張して扉の戸を叩くのは、海軍の上層部から自身の昇進を言い渡される前以来だろうか。


「…失礼する」


大丈夫。声は震えていなかった。情けない、とも思うが仕方ないのだ。
なにせ呼びつけた人物が…


「よく来た。楽にしなさい、モモ坊」

「……了解です」


革張りの椅子の上で足を組み替えた女傑は頬杖をついてニヤニヤと笑っていた。
この人は大体この表情をしている。海軍基地の廊下を行く時も、食事を摂る時も、戦場へ出向いている時も、他者と話をする時も

モモ坊、と呼ばれたモモンガは大人しく女傑の正面になる椅子に腰を下ろした。やはりどうしても萎縮してしまう。


「さて、何故私に呼びつけられたか、理由は察せているかい?モモ坊」

「…いや、考えてはみたが此れだと思う答えが浮かばなかった。――何の用ですか、ナマエ殿」

「ハハ、そうか。思い浮かばなかったのね。そうか、そうか」


モモンガに「ナマエ殿」と呼ばれた女傑は切れ長の目を楽しそうに細めた。色素の薄いその目の真ん中にはモモンガが映り込んでいる。何を言われるだろう、とビクビク…萎縮し切っている姿だ。



「そう怯えないでもいいさ。様子を見たかっただけなんだ」

「…は。 様子、ですか」

「ああ。蛇姫を迎えに長らく本部を出ていたじゃないか。なのにお前は、任務から帰還したと言うのにちっとも私の顔を見に来てくれなかった。まったく、泣いちゃうよ?モモ坊」


泣くわけない、この人が。
実は薄々あれのことか、と危惧していた理由を告げられたモモンガは、渋い顔をしつつも「…はぁ」と曖昧な返事をしてしらばっくれておいた。ナマエはクスクスと笑っている。


ナマエはモモンガをからかうのが大好きだ

教え子として、師と弟子と言う関係になったその日から、「モモンガ、って言うのかい?何だ見た目に反して可愛らしい名前だな。モモ坊と呼ぶことにするか」と勝手に愛称で呼ばれるようになった日から、ずっと。

モモンガは私の玩具だと言って憚らないのである。


海軍学校に在籍した頃から沢山の教官の元で師事を仰いだが、その中でもナマエとは本当に色々あった仲だった。
一秒でも授業に遅刻して来れば滝壺に突き落とされたり、自信満々に挑んだ腕相撲勝負で何度やっても負かされたり、仮眠を取っていた間に勝手に髪の毛をバリカンで剃られていたりと、思い出せないくらいの思い出だ。
とかく、要するにモモンガにとってナマエと言う女将校は、畏敬の対象であり従わざるを得なくされる存在であった



「 何か、言いたげな顔をしてるねぇモモ坊」

「! い、いや、そんな事実はありませんぞ」

「ハハハ、嘘を吐け、嘘を」



お前は本当に分かりやすい子だよ、とナマエだけが察せられると言っても過言ではないモモンガの僅かな表情の機微を感じ取って笑う。
ずばり的中させられてしまい、ソファの上で押し黙るしかなくなったモモンガにナマエはすっかり満足したらしい。


「呼びつけて悪かったねモモ坊 もう戻っても良いぞ」

「 はあ もう、ですか。貴女にしては早い解放で…」

「なんだ、もうちょっと此処にいたいのなら引き止めるが?」

「……遠慮しておこう。仕事があるもので」

「残念だねぇ」



またおいでよね、モモンガ

ヒラヒラと手を振り退室して行くモモンガを見送っているそのナマエの顔は、まあ確かにモモンガの目から見ても"残念そう"に見えた


「…」


その表情に、絆されたわけではないが


「おや、戻らないのかモモ坊」

「…僭越ながら、ナマエ殿の暇潰し相手になるのも吝かではないと判断した」

「言うじゃないかモモ坊 私が暇をしていたことを察してもらえて嬉しいよ」

「それと、もう一つ」

「まだ理由を見つけたのかい?」

「寂しそうに、見えましたのでな」


ナマエがふと無表情になる。 しかしニヤァと笑みを深くした。
あ、これは モモンガが自身の失言に気付き訂するより前にナマエはモモンガの顎をクィっと持ち上げ目を覗き込んできた



「見栄を張るのは止めろモモンガ どう考えてもお前の目の方が"もっと私と話がしたい"と言っているじゃないか」


―――気付かれた断じて違う と言いたい
言いたい、が まあ真実なのでとやかくは言うまい それに言おうと口を開こうにも、ナマエの唇が口に被さってきたことにより不可能なことなのだ