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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ わるいゆめ


ドタン! バタン! と似つかわしい騒音を立てながら、城中の扉と言う扉を開いて回っていたミホークが、
シッケアール城の図書室の掃除をしていたナマエの姿を見つけた時、もっとも"らしくない"行動を取った。
手に持っていた蔵書を取り落としながら、駆け込んできたミホークの身体を胸で受け止める。


「……どうしたんだミホーク」


いきなり抱きついて来たりなんかして。

ナマエからの疑問にミホークは答えない。 正確に言えばミホークはナマエに抱きついたわけではない。ただ、突撃をかましただけだ。 正直、かなり痛い。しかしミホークがこんな奇行を取ったのには勿論理由が存在している筈である。だからナマエは痛みを堪えつつ、掃除に使用していた埃くさいはたきと雑巾をミホークに当たらぬよう遠ざけておいて、それからミホークの身体を抱き起こした。


「かなり情熱的に俺を探してくれていたみたいだが…何かあったのか?」

「…」


ミホークは渋っているようだった。言おうか言わまいか、かなり苦渋の決断を胸の内でしているようだ。 それに、ミホークは寝着のままだ。朝に一回声をかけに行ってから、昼過ぎである今まで、まだ惰眠を貪っていたらしい。
ははあ、とナマエは予想を一つ立てることが出来た。



「嫌な夢でも見たのか?」

「…………………笑うか」



なんと、当たりだ。 言い当てられて吹っ切れたようなミホークは、起き抜けのヨレた前髪の隙間からジロリとナマエを睨む。


「どうしたどうした。名立たる七武海の一角ともあろうお前が夢如きで取り乱すなんて、お前を志すゾロや他の剣士たちが聞けば目玉を引ん剥いてしまうんじゃねぇか?」

「……不愉快な夢と言うのは見れば誰であろうと関係ないだろう」

「まあそれもそうだな。夢の中では誰だって無防備になるしな。 で?どんな夢を見たんだ。 ゾロに一本取られでもしたか?」

「違う」



ミホークはフン、と言いたげである。たとえ夢の中であろうとそれはない、と言いたいらしい。ゾロが聞いていたら怒りそうな話だ。ならどんな夢だと、ナマエは笑いながら問いかけた。大量の蔵書が並べられてある埃くさい、黴くさいこの図書室でよもやこんな話をするとは。



「………おれが、」

「ミホークが?」

「……赤髪に破れ、」

「……は? 四皇の?」

「…この城を奪われた夢だ」



…何と、まあ。
ナマエはそれだけ呟いた。ゾロに負けた夢では?と言う予想と、当たらずとも遠からずであった。
語るミホークの顔には途轍もなく憎々しそうな表情が浮かんでいる。思い出してまた腹が立って来たようだ。確かにそれは屈辱的だなあ、ととりあえず賛同してやることにした。しかしそれでは、ナマエを探してまで伝えに来たと言う理由にしては些か不明瞭である。

そしてミホークは夢の続きを話し始める。先ほどよりも10倍、顔を憎らしそうに歪めながら



「……ナマエを持って行ったんだ」

「 お、俺を?赤髪がか?」

「"戦利品だ!この城ごとお前をおれの船に連れて行く!"…だのと言って…」

「…俺をシッケアール城ごと船にって言うのは無茶苦茶だな」

「…ナマエは抵抗していなかった」

「おいおいミホークの夢の中の俺よ…」



二度も睡眠をとるのは良くなかった、あれが原因か、とミホークは二度寝した自分の行動を責めている。それはあまり関係のないような気もしたが、これでミホークが反省して直ぐに起きて来てくれるようになればナマエとしては大助かりな話だ。


「夢でよかったな」と励ます。しかし励まされている気がしないのか、ミホークは未だに何故おれが赤髪に遅れを取らなければならないのか、とか、あいつは新世界にも島を持っているくせに何故クライガナ島まで、とぼやき続けている。



「まあ所詮夢の話だろう。俺がこの島と城を出て行く予定は今のところ全くないから安心しろ」

「…赤髪に誘われたらどうする」

「ちゃんとお断りするさ。"俺にはミホークがいるんで間に合ってる"って言ってな」

「………」

「本当にするから、そう睨むな」



たかが夢、だ


ナマエの笑った顔をじーっと見つめていたミホークはやがて分かった、と言うように頷いた。そこで漸く、この場所が図書室であることに気付いたのか、露骨に顔を顰め「…埃臭い」と言う。お前が押しかけてきたせいで掃除が滞ってるんだろうが、お前は早く顔を洗いに行けと言うがミホークは無言でぐずっている。

そんな二人の空間の空気を横に真っ二つにするような大きな声が飛び込んで来た



「ナマエ!酒!!」




「…お前はほんと要らんことばかりミホークから受け継いでいるような気がするな、ゾロ」

「あ?どこがだよ。 ゴースト女も上で喚いてたぞ。早く昼飯作れだの何だの」

「ってもうそんな時間だったのか!?」

「ナマエ、おれも腹が減った」

「お前はさっきまでぐずついていたくせに何だその変わり身の早さは!」