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▼ 共白髪まで


「センゴクに神経性胃炎の疑いがあると聞いて駆けつけてみたんだが」

「……」

「なんだ、白髪になっただけじゃないか。つまらーん」

「……ナマエ!!!貴様も何なのだ!久方ぶりに顔を見せに来たと思ったら!!」


元帥と言う任を退き、大目付になった筈のセンゴクの部屋からは変わらぬ怒号が響いていた。

センゴクが元帥になるより前から親交のあったセンゴクの担当医――と自称している――であるナマエはおもむろに溜息を吐き、持っていた医療バッグをソファの上にポイと放り捨てる。あからさまな「駆けつけて損しました」みたいなナマエの態度にセンゴクはまた怒りのあまりに震えそうになる。


「怒ったって俺には手の施しようがない。髪用の染料ならあるぞ。要るか?」

「要らんわ!!仕舞え!」

「今日はやけに怒ってるなセンゴク… からかったのは謝るって」

「それだけでは此処まで怒ってはいない! ナマエ!一年半もの間音信不通のまま何処をほっつき歩いていたのだ!」

「ああ、そのことか」


白衣が皺くちゃになるのも気にせず、医療バッグの隣に腰を落としたナマエは怒髪天を衝きかけているセンゴクをなるべく刺激しないように、この一年半の旅の理由を話した。


「マリンフォードの一件で怪我人がバカみたいに出ただろう」

「バカみたいだと貴様…」

「まあ最後まで聞け、聞いてくれ。 俺は勿論その怪我人たちを死ぬ気で看病した。一日二十四時間ずーっと三百六十五日」


日にちは盛っているが、時間は真実だ


「その反動でな、 厭きたんだ」

「………は? "厭きた"?」

「そう もう怪我人を見るのも嫌になってしまって」


知り合いの医者に助けを求めたら完璧な"ストレス"から来る症状だと診断された。
忙しい医者にはよくある事だったそうだ。

それでナマエは、気持ちが入れ替えられるまで旅に出た。「もうすっかり治ったから安心してくれ」と語ったナマエの頭に拳骨が入る。


「……痛いぞーセンゴク」

「痛くしてるんだから当然だろう! 旅に出たのは良い!何故それを教えなかったのかを責めているんだ!」

「それは悪かったよ。お前さんがあまりに忙しそうにしていたものだからな。言うのを憚られたと言うか…」

「………おれを気遣った、と言うわけか」

「まあ、そうなる」

「……お前が、おれを か」

「その失礼な反応は何だ」



――しかし、まあ また見事な白色になっちまって

笑いながらソファを立ったナマエは、窓際で立っていたセンゴクの傍へ歩み寄る。


禿げの心配はお前さんには一生来ないな、とからかっていたのが確か五年程前のことだ。思えば長い付き合いである。夫婦ならば金婚式を迎えているような年月を共に過ごしてきた。
だから、たった一年半如きの別れなど、センゴクからしてみれば些末なことだと思っていたが、どうやら事実は想像と違っていたらしい

そうでなければ、手で触れただけで あのセンゴクがここまで顔を赤に染めてしまう理由がつかないだろう


「人間のストレスとはやはり、かくも恐ろしいものだな」

「…そう言うナマエこそストレスで厭になったのだろう。お前も、こうなってしまえ」

「ははは、俺も白髪にか?それもいいな。そうすれば俺とセンゴクで、"共白髪"と言うわけだ」

「共しら…!?」