20万企画小説 | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




太陽が隠れ月が真上に昇って来た頃。酒を呑み出来上がっている男が足取り覚束無くフラついている姿を ナマエは海上からハラハラと見ていた。
あれだけ泥酔していれば、誤って足を踏み外して海に落ちて来るかも知れない。夜の海はとても冷たい。冷える、ではなく、冷たいのだ。そんな中に人間が入り込めば、心臓が凍り付いてしまう。

「あぁもう…!なんで誰も見咎めないのかな…!」

思っていたより白ひげ海賊の面々は危機感てものがないのかしら! 紙面の中でしか分からなかった彼らの実態に気が付く。
そして船縁近くをフラフラしていた男が、ようやくナマエの視界から消えた。仲間に呼ばれて戻って行ったのだろう。 これでようやく一安心……と安堵の息を吐いたとき、また新たな人影が船縁に現れた。また!?と視線を送れば、今度は大人数だった



「おーーい!にーーんーーぎょーー!!」


「!!?」



その内の一人が、口元に手を持ってきて大声で叫び出した。突然の名指し――少し違うが――に、ナマエの肩は大きくビクついた。 彼らの意図が掴めない。
今まで何度かこの船にいる者たちと目線が合った事はあったが、何の危害も加えて来ないし存在を認知されていないと思って安穏としていたのが祟っただろうか。遂に捕獲に踏み込まれるのかな、とナマエは船体の陰に隠れるようにして、男たちの動向を見守る



「おいアホエース!んな大声出して人魚が逃げたらどうすんだよ!」

「呼べば来っかなーと思って…」

「まずは人魚がいるかどうか目で視認するとこから始めるべきだろ」



一人、特徴的なシルエットが明かりに照らされて見える

気だるそうに目を海にやる男 ぼんやりとだが、その姿がナマエの目に飛び込んで来た



「……あ!」


思わず声が出る。 ――サッチさんだ!船の後を付いて泳ぐ事幾日、ようやく会えた!

だが喜びよりまず、自分のしでかした事の愚かさに気付くのが早かった。ナマエの出した声の方向へ男たちがバッと振り返る。すぐに嬉しそうな声が上がった



「人魚いたぞ!」
「マジでいた!」
「どれ?」
「ばかサッチ、もう老眼かよ! あそこだって、おれの指してるあの……、 おあぁっ!?」
「あ?――あぁ!?」
「おいエース!?」

「!」



ぐらり。 興奮して前のめりになったエース――あれがルフィのお兄ちゃんか――の身体が、船の外へと放り出された。
あ。とそれぞれが焦った声を出したのは、
本来ならばエースは悪魔の実の能力で落下していても体を炎に変えれば空中で受け身を取ることが出来、そのまま上がって来られるのだが、その時運悪く突然の高波がエースの体を飲み込んだのだ。
それはナマエの目の前で起きた。波に飲まれる直前のエースと目が合う。ばしゃん!と大きな音を立てながら、エース共々波は海へと入って行く。「やべぇ!!」と言うサッチの声がナマエの耳に届いたのと、ナマエが「危ない!」とエースを追って海面に潜ったのは、ほぼ同時だった。




巻き起こっている海流と渦に巻き込まれそうになったエースを間一髪で抱きとめる。人魚に生まれ変わってから、文字通り人が変わったように泳ぎが上手くなり、海流を読む能力に長けたのが役に立った。ぐったりと弛緩しきっているその体を両腕で支え、ナマエは一気に海面に向けて駆けた



「――ぷはっ!」再度上がってきた海面で飲んでいた海水を吐き出す。いくら人魚になったと言えど、塩の味の強い水は飲んで愉快なものじゃない。



「………おい、あんた」
「っ!」



背後から声がした。サッチの声だ。エースを救うべく自身も降りて来ていたのだろう。船上から「縄持ってこい縄ー!」と指示を飛ばす声が聞こえる。ナマエが腕に抱いていたエースが、意識を取り戻した



「…あ…、れ?にんぎょ……」



間の抜けたエースの声が聞こえる。
しかし、ナマエとサッチの双方には届いていない。



ずっと頭に思い描いていた人物が、目の前にいるのだから