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明かりが少なくなり、夜の基地本部は静かに密やかだ。
光の漏れてくる部屋では深夜組みの海兵達が仕事に励んでおり、昼夜問わず忙しげに電伝虫が鳴り響く。くあ、と欠伸を噛み殺しながら部屋から出てきた二等兵の男は、眠たい目を擦り、廊下の明かりを頼りにフラフラと海軍食堂へと足を運んだ。



「ナマエさん、いますかー?」




掛けられた声に反応し、厨房の奥へと引っ込んでいた影がゆらりと入り口のカウンターへ姿を現した。「いらっしゃい」と間延びした穏やかな声が返って来る。
レジの傍に置かれていたランプに火が灯され、深夜の食堂は開かれた



「今日も遅くまでお疲れ様です」
「ナマエさんこそ。 えーっと、おにぎりが12個、冷拉麺が3つと、肉巻き20個、お願いします」
「はぁい」



注文内容をメモしないまま、深夜の食堂の担当であるナマエはそそくさと厨房へ戻っていった。買出し係を任されていた男は、ふぅやれやれと溜息を吐き凝り固まった肩を二度程鳴らす。毎日24時間体制で動く海軍組織の中でも、深夜番は人一倍キツイ仕事だ。人間の本能で眠気を及ぼす時間帯になっても眠ってはいけない。仮眠を取ることも出来るが、それは大した癒しではなかった。何よりも欠かせないもの、――それはここの食事だ



「お待たせ〜」
「おっ!ありがとうございます!」
「いえいえ、これ食べてまた頑張ってね。足りなかったらまたその時々言ってくれれば、作るから」
「はい、いつも助かります!それじゃ」



3つのお盆に分けて乗せられた料理を器用に抱えながら男は食堂を去って行った。その顔は喜色満面と言ったところで、漂ってくる匂いを嗅ぐだけで腹は空腹を訴えてくる。早く戻って、他の奴らとこの感動を分かち合おう。廊下を歩くその足は、来る時よりも何倍も軽やかだった









束の間の一仕事を終えたナマエは、頭につけていた三角巾を解き「うー…ん」と軽く筋を伸ばした。壁に掛かった時計は午前2時半を指している。普段ならば後もう二組ぐらい夜食を強請ってくるのだが、今日はどうやら現れないようだ。


レジのカウンター下に備え付けられている丸椅子を取り出して腰掛ける。コチコチと時計の針が動く音と窓の外から聞こえてくる波の音だけが聞こえてきて、酷く眠気を誘う。堪らずナマエは手で口を覆い隠して小さく欠伸をした

そのナマエの姿を暗がりから見ていた人物が、小さく笑った声が聞こえる




「ふふ……眠たいのか?」
「……あら… 居たのなら声を掛けてくださいな。お人が悪いですよ」
「声を掛けるタイミングを見失っていた。 お前が欠伸をし終わってからかけようと思っていたんだ、許せ」



カウンターに寄りかかっていたのはモモンガだった。
ナマエは突然の旦那の登場にも軽く驚いただけで、すぐに破顔した。カウンター越しにその顔に触れ、確かめるようになぞる



「一週間ぶりですね。今回はどちらへ行かれていたのです?」
「マリージョアだ。天竜人の警護でな」
「そうですか…だから少し窶れ気味なんですね。 何か作りましょうか?」
「それを楽しみに起きていたんだ。作ってもらえなくては腹を泣かせたまま明日…いや、今日の昼までを過ごすはめになる」



そんな憎まれ口ばかり叩いちゃって。ナマエは楽しそうにクスクス笑った。釣られてモモンガも緩く笑う。深夜遅くに食べる食事もそうだったが、何よりも一週間ぶりに見る妻の姿に楽しく感じる一方だ。モモンガの妻ナマエは、夜の11時から朝の5時までの時間の海軍食堂の番を勤めている。なので日中は夜の為に寝て過ごしているか、海軍居住区にある自宅に帰り掃除をこなしているかで、早寝早起きを筆頭に生活態度良好なモモンガとナマエはあまり顔を合わせることがない。
しかしそれでも一週間に一度の周期で、どうしても妻の手料理が食べたくなるモモンガの方がこうして深夜まで起きて、飯を作ってくれーと言わんばかりに出向いて行くのだ


夫婦らしいことはあまり出来ない。だがそれでもいいと言うようにモモンガは満足気だった。勿論、それはナマエの側にも充分に言えることである




「海鮮たっぷりラーメンと、野菜たくさんの混ぜご飯と、今日はどちらの気分で?」
「そうだな、ラーメンの方を頂くか」
「はぁい ちょっと待ってて…」
「なあ もう二つ、食堂の電気を付けてくれないか?」
「あら、どうして?あまり明々とさせては他の方の迷惑に…」
「こうも暗くては料理をしているお前の姿が見れんだろう」
「……なら、そこの壁にスイッチがありますから、ご自分がお付けになってくださいな。そうすれば悪いと咎められるのは貴方、私じゃありませんからね」
「…まあいいか 妻の姿を眺める為の代償だと思えば、軽いものだな」
「ふふ、あははっ」
「…ふ」









楽しそうだなぁモモンガ中将とナマエさん

食堂の入り口で立ち往生している一等兵は困ったように笑った。この深夜の食堂を利用する海兵達の間で唯一避けて通らなければならないトラップ――愛妻家モモンガの登場に、まんまと出くわしてしまったようだ