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これは絶好のチャンスじゃねぇか




月日が流れ青年となったナマエが考えることや精神構造は十年前とちっとも変わっていない。寧ろ今日びまで生き続けてしまっている自分に対して僅かながら怒りさえも覚えているほどだ。仕方が無い。中身はもうとっくに老齢を迎えていい心をしているのだ。


なぜ俺は死ねない。
なぜ俺は元の世界に帰れない。

なんでエースが死ななくてはいけない。




「不公平だなあ」




ナマエの目に冗談の色は窺えない。
断頭台の上で項垂れている双子の兄の姿が遠くに見えて、ナマエは更に苛立たしげに吐き棄てた



「やめろよ」



どうして死にたがる自分は死ねないと言うのに、どうして自分を生かし続けてきた要因であるエースが自分よりも先に死ななくてはならないのか
このままでは、また自分は独りぼっちとなる。
インターネットもないし、ゲームもなく、戦いばかりのこの世界で、やっと好きだと思えたものをまた奪われてしまう事実と、背中を走る悪寒
やはり吐き気が止まらない




「――ナマエ!エース、いた!」
「おうとも、見えてるぞルフィ いるなぁ、あんな所に。 エースにとって 世界一似合わない場所にだ」



待ってろよエース!
と今にも正面から駆け出して行きそうな弟の襟首をとっ捕まえる。まあ待てルフィ。何もお前まで生き急ぐこたぁない。お前さんは俺に似て妙なところがバカ正直だから今回もあの海軍の群れに突っ込んでいこうとしてるんだろう?それはやめておけ。そんなんじゃお前と言えどエースんところにたどり着く前に死んでしまうぞ。それは羨ましいからやめ…ではなく兄ちゃんに任せておけって




「あっはっは! エーーースーーーー!!」




「んな…!? ナマエ!? 何でお前までココにいるんだよ!!」
「エースがいっけねぇんだぞー!お前が俺を見張ってていないから、死に場所目指してフラフラこんな所まで来ちまったんじゃあないかー!」
「は、あ…!?ナマエ、んな時までまだそんな事言ってんのか!もうお前でもいい!ルフィ連れて早く逃げてくれよ!!」
「聞こえんなぁエース。俺がこんな絶好の機会を放り出して逃げると思ってんのか。愉快だ!」




何年も、何年も何年も、何年も何年も何年も何年も何年も!
何年も年を繰り返し積み重ね生きて来たんだ、精神の一つや二つ可笑しくなったって誰も咎めやしないだろう!エース!子どもへ生まれ変わり妙な世界へ流れ着いた俺が、お前の弟として生まれたことにはきっと何らかの意味があるんだろうと思っていた!その意味が明らかにされるのは、間違いなく今だ!




「ルフィ、エースを助けるぞ。死んでも、だ」
「 おう!!」


「エース!お前はたくさん俺を死の淵から助けたよなァ!武器を構えた山賊に取り囲まれたあの時!わざと足を滑らせ川に飛び込んだあの時!毒の果汁を持つ実を食したあの時!脳天に穴を開けようと俺が針を構えたあの時!舌を噛み切ろうと口を開いたあの時!首を掻ききろうとしたナイフを止めたあの時!その諸々の礼を今しようか!」



「ナマエ…!ばっか野郎…!!んなこと、おれは望んでなんか、いねぇよ…!」



そんな事をして欲しくて、兄としてお前の死を妨害してきたのではない


断頭台の上で呟いたエースの言葉を拾ったのは、ナマエでもルフィでもなく、



「………やはり大きくなっても変わらんのう、あいつは」
「………ジジイの、せいだぞ、どうして、ナマエは、いつまで経っても、あんな……」
「………」






あはは、あはは!殺せ、殺せ!殺すのなら俺を殺せ!


笑いながら手にした剣を振るい海兵の中心にルフィと共に飛び出して行った男は海賊ではない。海兵達は当惑しながらもナマエの前に立ち塞がった。殺すのなら俺を、と叫ぶくせに男は一向に腕を止めない。隣を走る弟のような、断頭台の上の兄のような、超人的な力は一切持たないナマエだ。だってそんなものを食せば、また一歩死から遠ざかってしまうではない、か??





「――生きろエース! お前は、生きるんだ!!」




天へと吐き出したナマエの言葉は、大勢の海兵と海賊の怒号の中に消え失せた