20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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*「この花は枯れない」設定 過去編

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女は弱かった

叩けば泣くし、詰られれば泣く。力がないと嗤われるし、汚い体だと指摘されればそれだけで自分の全てが嫌になる

孤立させられると途端に不安がるし、暗がりにも怯え男を見れば立ち竦む。



ただ、自分を侮辱されることよりも、弟を莫迦にされることだけには強気でいた。
弟はわたしの宝物だと。この世界でたった一人の身内なんだと。


孤児と呼ばれることを姉と弟は嫌がった。ただ、親がいないだけだ。
それ以外のことで、面白半分に揶揄する子ども等と自分達の何が違うと言うのか。
女の眼はいつも憎悪と貪欲に塗れていた
弟はそんな姉の目を 時には背中を見て心を痛める日も少なくなかった。
寡黙な弟の分まで喧しい姉は、いつどんな時も弟の小さな手を放さないでいる



「…ごめんね」



そう切り出した姉の手に抱えられていたのは大小様々な果物の山だ
姉が「ごめんね」と言ったのは、"盗んで"来たそれを食わせることの弟への謝罪
金はとうに底を尽きている 盗める機会と遭遇したから、姉は手を出した

弟は、全部分かっている



「………食お、姉さん」
「うん… 今度はちゃんと、お金使って買ってくるから」
「…別に、いいよ気にしなくても」
「ううん 今度は、もっと要領よくやる 賢くなる」
「…………」



無茶するな。 弟の口から、ただそれだけの言葉が紡げない
姉は慰めを酷く嫌う。自分が弱いのも、要領よく出来ないのも、弟を守れないのも、全部自分が弱っちい女だからだ、と



「……今度からは、おれも盗ってくるから」
「! だめ!」
「おれの方が、きっと上手くできる」
「…!……それ、どういう意味?」
「あ…べ、べつに……」
「………」



不機嫌な食卓となってしまった。

隙間風の吹く裏通りの路地では、夜の冷たさが身を穿つ
果物は保存が利かないから、食べれるだけ食べて、詰め込むだけ詰め込んで、後は二人身を寄り添い合って眠るだけ。そうすれば、今日をやり過ごしまた明日を迎えられる




「………ねえ」
「…?」
「いつかさぁ……」



姉の声は微睡みの中から聞こえてくるようだ。
夢現のように、姉の方からポツリぽつりと声がする



「…おっきなさぁ…家に住みたいよね…」
「……雨を凌げるとこならどこでもいい」
「あはは…そうだね……そんでさあ、たくさんの人に囲まれてさぁ…」
「たくさんの人?」
「メイドさん?とか…コックさんとか…」
「…いらねーよ 言っとくけど、それ全員他人だぞ」
「尽くしてくれるなら他人でもいいじゃない それでいつか…大金持ちの社長?とかになってね…」
「…いきなり突飛ぃてるな」
「ゆくゆくはどこかの国の王様になったりしてさ…」
「……ありえない、そんなの」
「…わたしじゃ出来ないかもね…」


――そんな"女"じゃないから


「でもさ、あんたなら出来るかもよ?」
「…おれ?」
「うん 賢いしさ きっと社長にでも王様にでも、大金持ちにだってなれるよ」


「……おれに出来るんなら、姉さんにだってできる」
「…そう、かな?出来ると思う?」
「思う」
「絶対?」
「絶対」


「……そうだね うん、頑張る 弟に出来て姉に出来ないことなんてないよね」
「そう」
「はは…ありがと もう寝な」
「ん……」



弟はじきに寝入ったようだ。しかし姉の方はどうやら目が覚めてしまったらしい
拾ったボロボロの毛布を弟の方へと掛け寄せる。自身は手近に置いてあった短刀を握り締め、これから朝まで――いや眠気が来るまで不寝の番だ

小さい弟の体を撫でる手も小さく傷だらけ しかし、これから強くならなくてはいけない
弟よりも先に生まれたからには、弟の手本となるよう生きなければならない
いつまでも盗みを働いて底辺の暮らしをしている場合じゃないのだ




「…クロコダイルは、わたしの……」



 たからもの だもの