20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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*if続編:サッチがもし一日で帰らなかったら

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とりあえずサッチを自宅に引き取って一泊させたは良いとして、この先が問題だった。夏休み中なのが幸いして、サッチを一人にしておくと言う状況は今のところ免れてはいるが、一部の、なのに大多数の、ワンピースを知っている人間にとってはそれなりに有名で、しかもそれを差し引いても目立つ身なりをしているこのサッチと言う男を 無闇に外に連れ出すのは危険であることが、今朝メガネと相談して分かった



「……めんどくさいことになったな…」
「も…なんてーか本当にスマねぇとしか…」
「あいや…まあそんだけ気にしてくれてんなら、コッチもちっとは身が軽くなるけど、問題はそこじゃないんだ」
「??」



俺の家にいても、何も楽しくないんだよなぁ。これが



「メガネの家には色々おもしれーもんがあんだけど、俺ん家ってホントなんもないんすよ」
「…た、確かに、メガネ君の家に比べたらイケメン君の部屋はこざっぱーりしてるって言うか…スッキリしてると言いますか…」
「うん。メガネが遊びに来た時も、『ナマエの部屋はあれだ。少女漫画とかに出てくるスカしたイケメンの"シンプルな男の部屋(ドヤ)"ってアレ』とかって言われたっけな…。全然意味わかんなかったけど」



あーやれやれ。こんなことなら最初っから無理クリ言って友人の家に泊まらせておけば良かったかな、と後悔。引きこもりのアイツなら他者との接触は無いに等しいからオバサン達にも怪しまれなかったやもしれないのに



「……」
「…あー、あーでもさ!おれ別に平気だぜ!一日中ボーッとして過ごすことだって出来るし!」
「そーですか?ならそう……」
「?イケメン君?」
「…いや、もしそんなことさせたらメガネがブーブー言いそうなんで、ちゃんとした事やって過ごそう」


何かあったかなぁ、とボヤきつつナマエは部屋の押入れを開く。中には季節ものの服と予備の毛布が一枚、学校関係の品があるばかりでめぼしい物はやはりない。

後ろでナマエの様子を見守っているサッチの『いやホントに気にせんといて…!』と言いたげなオーラを感じ取ってしまい、ナマエはほんの少し責任感を感じていた。これからは、こんな風に異世界の人間を出迎えた時の為にもう少しユーモアのある男になっていようか、と珍しいことを考えながら押入れの下の段に手を伸ばす。
やはりあるのは衣類ばかりだったが、その隣に山なりに積まれていたものに目を向けた



「…あ」
「ん?何かあったのかイケメン君!」
「雑誌発見した」
「雑誌??」


引きずりながら取り出した雑誌は、種類様々に積まれていた。料理をしてみろと母親に言われ買って読んでみた料理雑誌に、少林寺以外にも体を動かせるスポーツを始めてみろと父親に言われ買ってみたダイビング関係の雑誌、適当に買ってきたテレビ情報誌に、



「……あ、これメガネから借りてた奴だ」
「メガネ君から? …えらくポップな美少女の雑誌だな…」
「アニメの美少女特集の奴…。少しは二次元の女の子に興味もて!とか言われて押し付けられた。一年前に」
「じゃあそっからずっと返してないのか!?」
「間違えて無くしたって言っちまってたなー、はははあったわ」
「いやいや!あったわ、じゃなくね!?」


中身をパラ読みしてるサッチは意外に礼儀人だ。しかし何だその組み合わせは。サッチにそう言う雑誌ほんと似合わないな。



「…この女って、全部作り物?」
「作り物…って表現でいいのか?俺は分かんないけど…」
「そうか……おれと、一緒か」



雑誌を集めていた手を思わず止める。なぜ、そんな悲しそうな声音でそんなことを言うのか。まあでも、サッチがその言葉をどう言う気持ちで言ったのかは分かる。短い間だが、この男の人となりなんかは何となく把握出来始めていたから



「…同じ、じゃないっしょ」
「え?」
「少なくとも、そこ映ってる女よりかは、サッチの方が"ちゃんと生きてる人間"だと思うけどね、俺は」



じゃないと、こんな質量のある残像みたいな存在、なんてあり得っこない。


深く考えず、何とはなしに口から出た言葉だったが、サッチは感動してくれたのか若干涙目で打ち震えている



「…!…、…!」
「…いや喋ってくんないと何言ってるかわかんねーし…」
「あり、ありがとなイケメン君…!な、んか、イケメン君みたいな子に存在を肯定されるととんでもなく嬉しくなることが判明したぞ…!」
「………はあ、そら良かったです」
「!?もしかしてイケメン君、今照れてなかったか!?」
「重い雑誌運んだんで頭に血が行ってるだけです気のせいです」
「なんだよ気のせいかよー」



……駄目だ、そろそろこの空気に俺一人じゃ耐えられなくなってきた


「おいメガネ 暇か」
「いきなりメガネ君に電話!?」
『宿題してたんだけど…なになに?サッチさんに何かあった?』
「何か面と向かってありがとうとか言われた」
『あー、言われ慣れてないもんねナマエ 良かったじゃん。仲良くしてるみたいだし』
「……」
「…メガネ君?無言のイケメン君から電話受け取ったんだけどイケメン君どしたんだ?」
『多分ですけど、照れてますよナマエ』
「イケメン君照れてんのか!?」
「うっさい!」
『ナマエはアレだからね。"ダルデレ"だから』
「だる…?」
『イケメンと可愛い子にのみ許された奇跡の性格のことですよー』



…やっぱりメガネになんか電話しなきゃ良かった。
見ろ。サッチめっちゃ俺ん方見てくんだけど