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この間の妻は可愛かった。
久しぶりに会ったから寂しくなって、普段言わないことをつい言ってしまったのかもしれない。「次はいつ帰って来てくれますか?」なんて、二十代の頃に言われたきりだろうか。去り際の表情を思い浮かべて、ボルサリーノは笑みをより一層強めた。あれからとても気分が良い。廊下ですれ違う海兵達に挨拶をする声音も弾んでいて、誰が見てもボルサリーノは上機嫌であった




「オジキ、楽しそうだな」



そんなボルサリーノに躊躇なく声を掛けたのは訓練場から出てきた戦桃丸だった。



「ん〜?分かっちゃうかい、戦桃丸〜」
「こんなのも悟れないようじゃ海兵務まらないだろ…。ナマエさんとの逢引、そんなに楽しかったのか?」



ナマエの名前が出た途端、ボルサリーノの気分は更に高まった



「いやね、会ったこと自体はいつもと変わらなかったんだけど〜、帰り際に可愛い事言われてねぇ」
「かわいいこと?」



男女の関係に疎い戦桃丸には分からないかもねぇ、とボルサリーノにからかわれ憤慨する彼を他所に、あの日の別れ際にあった出来事をボルサリーノはツラツラと述べている。どんだけ聞かせたかったんだよこの人は、と内心でウンザリしつつも戦桃丸は珍しいオジキの奥様の言動に乗っかることにした



「珍しいなぁナマエさんがそんなこと言うなんて」





ナマエと言う女性は、いい意味で"控え目"だ。強い自己主張をするでもなく、それで居て己を軽んじない、控え目だが強かな女性
優しげに見つめてくる双眸の光も、戦桃丸は忘れていない。数回会ったことがあるだけだったが、オジキの奥様にぴったりな人だなあと思った記憶がある



「……まあ、わっしもちぃーとばかし『あのナマエが珍しいねぇ』とは思ったんだけどねぇ」
「変事は災い事を引き起こす前触れかも…」
「おいおい戦桃丸〜そんな恐ろしいこと言わんでおくれよぉ」
「…すまねぇオジキ 勝手な心配しただけだ。気にしないでくれよ」





『次は、いつ……』




「……」


ナマエのこの言葉は、ボルサリーノの次の帰還の日を訊ねている。つまりそれは、彼女が"ボルサリーノの帰還"を望んでいると言うことだ。あの日、日程通り海軍本部へ戻ろうとしたボルサリーノを引き止めるでもなく、もう少し滞在してほしいと言うのでもなく、ナマエは"次"を願った。まるで、ボルサリーノが島を離れた後でしか何かが起こらなくて、そしてそれを後で早目に確かめて欲しがっているようではないか?なるべく早いうちに帰ってくる、と安心させる為に言ったボルサリーノの言葉を分かっているであろうナマエはそれでも『きっとですよ…』と返した。無理なことを言っているのは分かってます、それでも、早く、と




「…オジキ? オジキ聞いてたのか?」
「…!なんだい、戦桃丸〜」
「やっぱり聞いてなかったのかよ!だから、最近春島の近くで妙な海賊団の噂を聞いたから、それの調査に行ってくっからよって言ったんだ!」
「戦桃丸が春島に?あの島の近くには…」
「ナマエさんが住んでるオジキの島があるんだろ?だから、任務のついでにナマエさんの様子見てこようかって!」
「おぉ〜!そいつぁ有難いねぇ。わっしはまだまだ自由に動ける日はないから、お前が行ってくれるなら万歳だよぉ」



よしよし良い子と頭を撫でれば戦桃丸は顔を赤く染めながらやめろよオジキ!と叫んだ









そして、
戦桃丸が指揮する海軍船が任務に向けて出航してから数日経ったある晴れの日のこと




ナマエの様子はどうだったと訊ねるべく、本部入口で戦桃丸の帰還を待っていたボルサリーノの目に何よりも先に飛び込んで来たのは、

とても暗い顔をし泣く寸前の戦桃丸の姿と、彼が両手に抱えている人一人分くらいの大きさの麻袋
「オ、オジキィ…!」
掠れた声と震える手で、戦桃丸は麻袋をボルサリーノにへと差し出した。



「せ、戦桃丸?どうしたんだい」

「…っ、任務外、だったから、報告入れれなかった」

「何が…ナマエになにか…」

「ナマエさん…が、」






島に着いた時にはもう既に死後何日か経ってた、
海岸の入口に倒れてて、
抱き起こそうとしたらナマエさんの足が取れて、
虫がへばり付いてて、
島の住人に聞いたら、オジキに復讐したがってた海賊がナマエさんを殺したって、
家の方もめちゃくちゃに荒らされてて、
死因は出血多量らしくて、
でもナマエさん、
暫くは息があったみたいで、
這い蹲りながら海岸の方へ向かってたみたいで、






戦桃丸の語ることは破れかぶれだ
話の論筋が上手く通ってなくて理解し難いし、
話している内容も何を言っているのかが分からない
ナマエが、死んだ、だなんて、
ナマエが、殺された、だなんて、
そんなこと、
そん、なこと、
そん、な こ と、






受け取った麻袋は、
ボルサリーノが手で抱えやすいと感じるちょうど良い大きさで、
その重さも、以前にベッドまで運んだ際の重みが、少し増えた妻の…妻のそれと同じで、