20万企画小説 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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処刑台に上がり、嫌味なくらい真っ青な空を見上げながら、エースは昔のことを思い出していた。確かナマエ…――かつてエースの守護霊だった男を思い返す。そのナマエが昔 幼かったエースに言い聞かせた言葉は







昔むかしの話 エースがまだ、コルボ山の自然の中を上手く生きられなかった頃のこと
ダダンのアジトを抜け出して、成り行きで知り合いになったサボの元へ向かう道すがら
危険な場所の多いコルボ山をトレーニングだと称して行き交いしていた
足を滑らせれば谷底へ真っ逆さまの川
切り立った岩の多い崖
足を絡め取られればすぐに猛獣たちの格好の的になる森
命を落とそうと思えば、今すぐにでも落とせそうな場所



その道をあえて選んで歩く幼いエースの後ろを 水浸しのようにずぶ濡れの男がキリキリと無い胃を痛めながら付いて歩いていた




『エース坊 エース坊 待っておくれ』
「………お前が勝手について来てんだろ」
『わたしはエース坊の守護霊だよ… それに、わたしはお前でなくてナマエ 名前で呼んでほしいなぁ』
「うっせーなずぶ濡れ 水かかっだろ、近寄んな」
『…ああもう…手酷いんだから…』



取り付く島もないとは正にこの主人のことを指すに違いないて

まだ十にも満たない幼子のくせに、エースはとても子どもらしくない
隈のせいで落ち窪んだように見える厳つい目も、
ムッとへの字に引き締められた口も、およそ子どものソレじゃあない
ましてやこんな危険な山を毎日のように行き交いして、水濡れ男の心臓一個だけじゃあ足りないよまったく



『ああほら高い…!こんな今にも崩れて落ちてしまいそうな橋をよく渡れるねぇエース坊』
「…守護霊のくせに何ビビってんだよ」
『違うよ わたしがビビってるのは、この橋からエース坊が落ちて死んでしまわないかってことさ』
「……ふーん どーでもいい」
『どーでもいいってお前ねぇ…』



ナマエはビショビショに濡れている手をエースに伸ばして嫌がられた
ギシ、ギィシ…と橋は嫌な音を立てている。もうどうせ渡る羽目になるのなら、早いとこ渡りきっておくれエース!と水濡れは心内で主人に声援を送った



『エース坊は死ぬのが怖くはないのかい』
「怖くなんかねーよ」
『それはいけないよ…。やれやれ…わたしの主人は子どものくせにえらく死に急ぐ。 なにか大切なものの一つでも見つけなさいな、エース坊』
「……守護霊のくせに口煩すぎ。静かにして、!?」




そこからの出来事は正に一瞬のことだった

ナマエが あ、と気付いたのと、エースが驚いたのはほぼ同時
古く老朽化が進んでいたつり橋が、ビシビシと音を立てながら入り口から切れていったのだ

支えを失いバランスが取れなくなったつり橋はエースを乗せたまま逆さまに落ちようとする
「わ、わ!」とエースが慌てて手摺に捕まるが、崩れ落ちて行く衝撃から今にも手を放しそうになっていた




『エース!!』



エースの耳に切羽詰った水濡れの声が聞こえると、そのまま意識を手放した



気が付くとエースの体は 橋を渡りきった先の道に寝そべっていて、心配そうにしたサボの顔が視界一杯に広がって、そして、ナマエの姿がなくて、



「おい大丈夫かエース!」
「………」


物凄い音がしたから様子見に来たんだよ!怪我はないよな!?と心配してくるサボにぼんやりとした返事をしながら、エースは無意識の内に水濡れの姿を探した。
自分が生きてるなら、ナマエも一緒にいる筈で、あの小心者の怖がりがエースの後ろからひょっこり顔を出して「あー今の怖かったねぇエース坊」って言ってくる筈で


「……ナマエ?」
「…だれの名前?」
「誰って、おれの…」


守護霊で……







今の自分の姿を見たら、ナマエは何と言ったかなと、エースはあまり思い出さなくなっていた自分の守護霊のことを考える。
橋から落ちるところを助けて消滅、なんて今となっちゃ小さなことで命を落としそうになっていたあの頃の自分を恨む


「…ナマエ……」



もうすぐ、アンタにまた会えるのかな